マンション管理の部屋 -5ページ目

公庫マンション債 2.6倍

うぃるびーくん

↑すまい・る債のイメージキャラクター うぃるびー君です。



今日の日経新聞朝刊に住宅金融公庫の発行する債券「マンションすまい・る債」の購入が増え、前年比2.6倍になったとい記事がありました。


この「マンションすまい・る債」は住宅金融公庫住宅宅地債権(マンション修繕コース)の愛称です。
以前、このブログでもペイオフのお話しの中で少しご紹介したことがあります。

さて、このすまい・る債ですが、マンションの管理組合が積み立てている修繕積立金を原資ににして、住宅金融公庫が発行する債券を定期的に購入していくというもです。



【特徴】

●積み立ては年1回ずつ(継続して最高10回まで)

●1回あたりの積立額は1口50万円

●金融公庫が元本保証

●平均利率は0.629%(05年度分)、途中で資金が必要であれば換金もできます。

 (その際も元本割れはしません。)


などです。


また、マンション管理組合に対する特典も用意されています。



2004年度にマンション管理組合が購入したすまい・る債の総額は、前年度の2.6倍にあたる440億円強に膨らみました。

これはやはり、今年の4月のペイオフ(預金などの払戻補償額を元本1千万円とその利息までとする措置)全面解禁への対策と見られています。


昨年度に購入したマンション管理組合は1千969組合で、前の年度に比べて36%増えました。
1組合平均の購入は44.7口で、金額では2千235万円でした。

規模の大きなマンションの管理組合では、修繕積立金の積立額が1000万円を超えてしまいますからペイオフ対策も深刻な問題です。

管理組合では預金口座を分割したり、決済用預金に振り替えたりするほか、国債や地方債などの債券を購入する組合もありますが、
このような債券購入では証券の保管という問題が発生します。

数千万円の債券なので、組合員個人が預かるわけにも行かず、銀行の貸金庫などに保管せざるを得ません。そうすると貸金庫のコストや鍵の保管問題がでてきます。

この点、すまい・る債は金融公庫が無料で債券を保護預かりしてくれるので安心です。




住宅金融公庫では今月の20日から05年度分の募集を開始しますが、募集額は前年度とほぼ同額の450億円です。

受付期間は10月12日までで、先着順ではなく募集額を超える応募があった場合は抽選となります。

まだ、ペイオフ対策が進んでいない管理組合は、一度検討されてみてはいかがでしょうか?

http://www.jyukou.go.jp/index/stage/017.html

すまいる














マンションの付加価値

前回の記事に関連して、マンションの付加価値についてお話ししたいと思います。


最近の新築分譲マンションの広告をみていると、実に様々な付加価値をもった物件が増えていますね。

デベロッパー(分譲会社)も他社との差別化を図るのに必死といった感じです。

私が広告を見たものとちょっと書き出してみると、


☆オール電化対応

☆ペットと住めるマンション(足洗い場設置)

☆全戸サウナ付き

☆クリーニング受付BOX

☆全戸温泉付き!

☆24時間のフロント対応でホテル並みのサービス

☆100%無料駐車場付きマンション

☆最上階に共用大浴場 などなど

ペットマンションは従来の「マンションでペットは飼えない」という常識を覆す提案ですね。

最近ではリゾートなどでもペット同伴対応ホテルが増えてきていますが、マンションもどんどん多様化してきています。


さて、マンションが多様化して消費者の選択肢が増えることは悪い事ではありませんが、このようなマンションを選ぶ際は注意が必要です。



それは、そのマンションの特色はコストに見合っているのかという事と、将来に渡ってそのコストを負担していく覚悟があるか?ということです。




例えば24時間フロント対応ですが、マンションのエントランスにカウンターがあり、24時間対応でホテル並のサービスを提供してくれるというものです。


コンシェル




確かにサービスとしては素晴らしいと思います。

↓これはあるマンションの広告の一部です。


コンシェルジェがサポートするプライベートライフ

 
マンションライフのプライバシーを守り、わずらわしさからは解放する。24時間有人対応のフロントは、あらゆる居住者のニーズに対応するべく、待機しています。
 コンシェルジェは留守中の訪問者からのメッセージ預かりや、クリーニングの受け渡しはもちろん、タクシーやレンタカーの手配、トラベルチケットのリザーブやハウスクリーニングやベビーシッターの手配など、まさにリゾートホテル並みのサービスを実現するためには、欠かせない存在です。

ちなみに「コンシェルジェ」とは特にフランスのホテルなどで、観光案内など客のお世話をする係りのことです。

マンションに帰ってくると「薬丸様、お帰りなさいませ。」なんてお出迎えしてくれるのでしょう。


しかし、もちろんこのサービスはただではありません。サービスにかかる費用は全て管理組合が負担するのです。と言うことは区分所有者が月々の管理費の中で負担すると言うことです。

非常に大雑把な計算ですが、24時間対応でフロント対応をするとなると、フロント要員は最低3交代は必要でしょう。

フロント要員1名の月当たりの人件費をざっと25万円とすると3人分で75万円。
75万円を仮にマンションの居住者100戸で割ると、一ヶ月7500円です。

この7500円をマンションの住民全員が将来にわたってずっと負担することを覚悟するということなのです。



『最上階に大浴場』 、毎日仕事の疲れを夜景を見ながらの入浴で癒す。うらやましい・・・・。


温泉



しかし、この大浴場にかかる費用も全て住民負担です。大浴場を使おうが、使うまいがです。
大浴場ですから水道代も馬鹿になりません。毎日の清掃費用もかかります。
誰も入らない日があっても湯を沸かさなければなりません。

このような高付加価値のマンションでは、入居開始数年で「管理費削減のための共用サービス見直しについて」といった議論が持ちあがることがあります。

マンション住民の総意で変更するのであれば問題ありませんが「俺は費用負担覚悟で大浴場付きのマンションを買ったんだ!大浴場がなければこのマンションは買わなかった!」という人もいるでしょう。

ある高層マンションの区分所有者の方に聞いた話しですが、高層マンションでは低層階に比べて高層階の分譲価格は高額であり、居住者の所得格差が大きいそうです。

そのため管理組合の運営でも意見が分かれる事が分かれることが多く、合意形成難しくて困っているということです。





もう一つ、 「無料駐車場」ですが、これはなにも販売会社のサービスではなく、本来なら管理組合の重要な収入源となる駐車場使用料が入らないということです。

さらに、車を所有しない住民との間に不公平感が生じる危険性もありますね。

このようなマンションでは当然大規模修繕の際に資金が足りなくなる可能性がありますから、一時金の徴収が予想されます。

要は現在の負担を軽くして将来苦しむか、こつこつと地道に積み立てるかの違いです。


このようにマンションの付加価値には、区分所有者の大きな負担となるものが多くあります。

また、マンションの特性として一度決まった事柄を変更するには、大変なエネルギーを必要としますから、もし後から付加価値を付ける変更を行うような場合は、十分な検討と覚悟が必要でしょう。



「管理」が危ない(2)

フロント

↑マンションの24時間フロントサービス

日本経済新聞の埼玉版のマンション管理についての特集記事をご紹介しております。


(以下、新聞記事)


「これでは責任ある管理業務は不可能です」。

一昨年7月、東京都新宿区のあるマンションの区分所有者全員に、一通の「通告書」が届いた。差出人は管理会社。新築から20年余の付き合いでついに“三くだり半”が突きつけられたのだ。

 管理会社がマンションを見放すのは極めて異例。だが、その事情には無理からぬものがあった。据え置かれ続けた修繕積立金は月額たったの7百円。国土交通省がはじいた平均額の10分の1にも満たない。外壁のタイルははげ、手すりは錆びだらけ。それでも区分所有者に危機感が薄い。

15戸のほとんどが賃貸物件で収入源としか見ていないためだった。

 そんな状況下で管理会社は大規模修繕を提案、1戸100万円の臨時出費を求めたが、結論は「絶対反対」。最後のお願いは悲劇というより喜劇じみて幕を閉じた。



 これを極端なケースと断じるのは簡単だ。しかし、管理費は削るに限る、との風潮は賃貸物件だけではない。むしろ「終(つい)の住み家」と腹をくくった住民の胸中には、割高な管理費を払わされてきた、という不信感が根深く巣くっている。


 興味深い調査がある。

1998年、住宅金融公庫が中心となり、首都圏の管理会社に「80戸、エレベーター1基を持つ程度のマンションの年間管理費はいくらか」とアンケートした。

結果は最高が2千8百43万円、最低が320万円。

サービスの質の差があるのだとしても、これだけの価格差を素人はどう理解したら良いか?

「うかうかしていると、2千8百万円の金を支払っても、300万円台のサービスしか受けられない可能性もある」と同公庫の冨田主席研究員は言う。

 

 業界ではかつてマンション管理を「おいしい仕事」と言ってはばからなかった。分譲会社などの系列会社が新築時から管理業務を受託。仕事に忙殺されて住まいに注意を向きにくい住民相手に、値上げもすんなりと通った。だがここ数年、管理を専門に行う独立系企業が参入、割安な価格を前面に出して老舗の領分に攻め込む事例が続出、今や「仁義無き戦い」の様相だ。


 公正取引委員会の2003年の調査では、マンションの奪い合いが生んだ新たな歪みが指摘された。管理組合が取引を見直そうとすると、管理会社が住民名簿や会計簿を渡さないなどの陰険な妨害工作にでる事例が目立ったという。

 住民も目を覚まし始めた。「もうヒモ付きの管理会社はいらない」。東京都江戸川区の葛西第2スカイハイツの住民が立ち上がったのは3年ほど前だ。

 真っ先に手をつけたのは80年の分譲時からの管理会社の変更。
新会社競争入札とし、年間約500万円の管理費を削減。大規模修繕工事も組合が直接発注し、工事が適正に行われているかどうかを判断してもらうためコンサルタント会社とも契約した。

 選定にあたってはマンションの理事長が事務所に出向いて、社長を面接したほどだったという。

住民が汗をかき、不透明な取引を徹底的に排除した。「やればできる」を地で行った成功例だが、それでも不満が出るのが集合住宅の難しさ。

 住み込みで働いていた管理人を「通い」に変更したところ、一部から不満が漏れた。

「私は常駐が魅力でここを買ったのに」


 高齢者の住民のゴミ出しを自治会が手伝うなど、このマンションではその後も表立った対立は無い。

 しかし、価格と一緒に切り捨てたサービスを巡るしこりが完全に払拭(ふっしょく)しきれたかどうか。同マンション理事長のつぶやきは重い。「100人いれば100通りの理想がある。誰もが納得できる管理なんてあるのだろうか」

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最近、マンション管理についての関心の高まりから、革新的な理事会では管理会社のリプレイス(変更)が積極的に検討されています。

一方で、マンション管理にほとんど関心の無いマンションでは、逆に管理会社の方から契約解除を申し入れられるケースもあります。


マンション管理についてはこれと言った正解はなく、人それぞれ理想を持っています。

最近のマンションでは高級ホテルのように24時間対応のフロントを設置する物件もあります。多少管理費が高くても、そのようなハイグレードなサービスを受けたいがために購入を決めた人も多いでしょう。

なのに、「管理費が高くつくから」という理由でこのようなサービスの廃止を提案しても、「そんなこと最初から分かっていたこと」「だったら他のマンションを買うべき」といった強い反対が予想されます。

マンションでは管理の質を後から変更することは非常に困難です。しかし、時代の流れに応じて管理の質や内容が変わっていくことも現実です。

日頃からマンションの住民の意思疎通を図り、価値観のすり合わせをしていくことが重要でしょう。

「管理」が危ない(1)



通帳



日本経済新聞の埼玉版に6月1日から4回の連載で『マンション誰のもの--「管理」が危ない』というマンション管理についての特集記事が掲載されましたので紹介していきたいと思います。

日本経済新聞では以前も同様の特集が組まれたことがあり、このブログでもで紹介しておりますので、あわせてご覧いただければと思います。

(ブログテーマ一覧の「建替えのこと」から入って、3月16日からの記事に記載しております。)

それでは早速新聞の記事を紹介いたしましょう。



(以下、6月1日の新聞記事)


「まさか自分が被害にあうなんてね」

東京・港区にある分譲マンションの管理組合で理事長を努める鍋川強士さん(仮名、41歳)。修繕用に住民が積立ててきた資金の通帳のコピーを前に、肩を落とした。

「2004年3月31日、入金540万円」「4月1日、出金540万円」―――。

不自然な資金の出し入れが始まったのは3年前。マンションの管理会社で今年1月に事実上破たんした和泉創建(渋谷区、福田稔社長)は、組合の決算日に一時的に入金し、残高証明を提示することで、何事もないかのように装ってきた。

資金の流用は経営が行き詰まるまで発覚せず、繰り返された。

 現在は組合で印鑑を保管しているが、かつては通帳、印鑑ともに和泉創建に預けていた。

「払戻請求書に勝手に判子を押し、引き出していたんです」。鍋川さんは悔しがる。

 和泉創建は約30物件・計1200戸を管理し、流用した資金は1億5千万円を越す見通しだ。同社が加盟する高層住宅管理業協会には加盟社の経営破たんに備えた保証制度があるが、保証されるのは管理費や積立金の1ヶ月分だけ。

 鍋川さんのマンションの場合では約40万円と、被害額の10分の1にも満たない。


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 埼玉県三郷市でも管理会社の破たんと資金流用で多額の損失を被ったマンションがある。

 「高金利の商品に預け替えるから」「管理費の滞納分を積立金から補填してほしい。――。

 事件が起きたのは2001年、マンションの管理会社である東海不動産管理の担当者が言葉巧みに組合の理事長に押印させ、引き出した資金を横領していた。被害額は3千4百万円。組合が会社に問いただすと、金庫に保管されているはずの通帳もなくなっていた。 会社も間もなく倒産。

当時、マンションは築2年目で管理組合は発足したばかりだった。「不慣れな住民からお金を騙し取るのは赤子の手をひねるようなものだったはず」と現在の組合理事長である和泉民郎さん(42歳)は憤る。

 住民は将来の大規模な修繕に備えて資金を積み立て、多くの場合、管理会社に委ねている。管理業務は手堅いビジネスで参入企業も多いが、バブル崩壊による不動産売買の失敗などの傷がいまだ癒えぬところも少なくない。

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 高層管理協会に2004年度に寄せられたトラブルなどの相談件数は約4千5百件。

前年に比べて2割も増えた。


 不測の事態を避けるためには経営状況の監視が不可欠だが、財務情報の開示はお寒い限りだ。

 01年8月にマンション管理適正化法が施行され、管理業者は登録時に財務データや管理戸数などを開示することが義務付けられている。しかし、データの更新は5年ごとで役に立たない代物だ。高層管理協会も加盟社の決算情報をホームページで公開しているが、強制力はなく、和泉創建などのデータ欄は長らく空白だった。

 情報開示を徹底する法制度の充実も当面は望み薄だ。国土交通省は勉強会を発足。管理適正化法の見直し作業に着手したが、動きは鈍く、住民自身が自ら守るしかないのが実情といえる。

 2003年秋に破たんした東洋ビル管理の場合、同社が管理していた役70物件のうち、被害額がゼロだったマンションが3割あった。「住民の目が厳しいかどうか」(高層管理協会の松岡英雄事務局長)


マンションが「管理」を買え――。

マンションの購入時にしばしば耳にする言葉だ。管理の水準が建物の寿命を左右するためだが、実際には管理会社任せの例が多く、各地でトラブルが発生している。「うちの管理会社は大丈夫なはず」という気の緩みが落とし穴になる。

第二部ではマンションの管理を巡るリスクを追う。


如何でしたでしょうか?

「うちのマンションは大丈夫だろう・・・」とお感じになった方も多いのではないかと思いますが、その根拠は何でしょう?

管理会社が大手だから?

管理組合の誰かが、きっとちゃんとしてくれているから?

いくら会社が大手でも、倒産するときは倒産します。

また、マンション管理にあまり詳しく無い人ほど「管理組合には立派な人が役員になっているのできっと大丈夫」と思いがちですが、意外とそうではありません。

理事の中には仕事柄、数字や法律に詳しい人や、施工関係の人のいらっしゃるでしょう。確かに個々の分野ではプロかもしれませんが、「マンション管理」という分野ではほとんどの皆さんが素人です。


会社が倒産することを事前に察知することは非常に困難です。

取引をしている会社ですら察知できずに不渡り手形をつかまされたりするのですから、マンションの管理組合がそれ以上の対応を行うことなど不可能に近いでしょう。


ところで倒産というのは具体的にどのようなことを言うのでしょうか?

一般的には「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」と定義されます。

しかし、赤字続きでも倒産しない会社はたくさんありますし、一方で利益が出ているのに倒産する会社もあります。

倒産の形を大きく2つにわけると、

①2回目の手形不渡りを出し、銀行取引停止となったとき

②民事再生法などの申請を行ったとき

です。

会社というものはいくら赤字であっても、支払いが滞らない限り倒産はしません。スポンサーがじゃんじゃんとお金をつぎ込めば、いつまでも潰れないのです。

一方、黒字経営の会社であっても、付け払いが多すぎて資金繰りが滞ってしまい、不渡りを2回出してしまうと銀行取引が停止となってしまいます。これは会社にとって「社会的信用が無くなった」ことを意味し、 「死亡宣告」と同様の効果となります。

よくニュースで「事実上の倒産しました」というのはこのような場合を言います。

このように倒産の情報を事前に察知することは非常に困難なので、管理組合としては

管理会社が倒産した場合のリスクを徹底的に排除する

ことに関して、常に注意を払うことが求められるでしょう。



マンションの駐車場問題(7)「駐車場の増設」


増設



前回も書きましたが、マンションにおいては駐車場を敷地内に確保できるか否かによって、利便性が大きく異なります。


マンションはその構造上、一戸建てと比べて1階の入口から自分の居室まので移動距離が長くなるため、多くの場合駐車場はなるべく近くに確保したいという心理が働きます。


マンションの共有資産である駐車場の利用を公平に運用するために、敷地内に余裕があるマンションでは、駐車場の増設を検討する管理組合も少なくありません。


また、近年では機械式立体駐車場なども普及してきていますので、狭い敷地を有効活用することも可能です。


駐車場の増設を実現するには、色々な問題を解決しなければならず、決して簡単な作業ではありません。
一般的な手順は以下のとおりです。


①駐車場増設を求める住民の意見集約


②総会、理事会等で駐車場増設の進め方等を協議


③専門委員会の設置


④アンケートによる実態、意向調査の実施


⑤駐車場増設案の提示、検討(説明会の開催等)


⑥途中段階での住民意向等アンケート調査(事前の票読み)


⑦総会決議


⑧増設工事の発注、完成


⑨使用者の決定



て、上記手順の他にも実際には色々な手続が必要と思われます。


例えば、⑥のアンケートの結果によっては計画の見直しや一部修正が必要なこともあるでしょうし、増設工事の「発注先をどのようにして決めるのか?」と言った部分でも、協議に時間がかかる場合があります。


このような手順の中で最も重要なものの一つに「増設する駐車場に近い住民の同意」があります。


マンションを購入する場合、価額をはじめとする様々な条件を勘案した上で購入を決めているわけですから、既存の駐車場に近い居室を購入する人は、ある程度の車の騒音などは覚悟の上でしょう。



しかし、新たに駐車場を増設するとなると、その増設場所に近い住民の同意を取り付けることは簡単ではありません。駐車場の増設は、増設付近の住民にとっては「不利益変更」の要素が強いからです。




増設場所の近くに住む人は排気ガスや夜間の照明、騒音、早朝のアイドリング等の被害を考えて反対する場合があります。

また、樹木を伐採したり花壇を撤去する必要があるような場合は、増設付近の住民以外からも反対されることがあるでしょう。特に車を所有しない人や環境を重視する人であれば尚更です。


考えて見れば、車を所有していない人にとって駐車場の増設などは、あまり歓迎する施策ではありません。
まあ、駐車場の増設による利用収入増で修繕積立金が多少増えるかもしれませんが、そんな事よりも、マンションの環境保全の方が重要でしょうから。



【判例】


駐車場増設工事に伴う判例としては、昭和63年の横浜地裁のものがあります。


区分所有法の第17条第2項には

「共用部分の変更が専有部分の使用者に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない」

という規定があります。


区分所有者全員のための共用部分の変更とは言え、一部の区分所有者にのみ特別の不利益を生ずるような場合は、ちゃんと承諾を得なければならないというものです。

この規定は非常に重要なものですから、是非憶えておいて下さい。


この横浜の裁判では住民の一部が、駐車場の増設工事が

「専有部分の使用者に特別の影響を与える」ことになるとして、工事禁止の仮処分を申請しました。

仮処分というのは裁判での最終決定を待っていたのでは、回復しがたい損害が発生する危険があるような場合、とりあえず暫定的にある行為を中断させる法律上の行為です。

今回の場合は裁判で駐車場の増設について「専有部分の使用者に特別の影響を与える」ということが認められたとしても、裁判が決着するまでには長い期間を要し、その間に駐車場が増設されてしまうと、今度は撤去させることが困難となるので、工事禁止の仮処分の申請したものです。

余談ですが、この仮処分というのは色々な使い方があり、ライブドアがニッポン放送の新株予約権の発行差止めを求める仮処分を申請したことは記憶に新しいところです。


その他にも、例えば騙し取られた土地の返還を求める裁判をしていて、せっかく裁判に勝っても、その間に転売されてしまうと手元に戻らないことになるので、このような場合には「処分禁止の仮処分」と言うものを申請して、まずは相手が転売することを封じておくことが訴訟での戦術でのセオリーです。


さて、話しを戻しますがこの横浜地裁の決定は、


「区分所有法第17条第2項の規定は、共用部分の変更の必要性、有用性と特別の影響を受ける区分所有者の不利益とを比べて、受忍限度を超える不利益を想定しているが、今回の駐車場増設では有用性は認められるが、訴えた区分所有者の受忍限度を超えるような環境の悪化や騒音が生じるものとは認めがたい」として、仮処分の申請を却下しました。

(その後の高裁も同様に申請を棄却しました)


このように、駐車場の増設が裁判となった場合、駐車場増設による有用性と、不利益の受忍限度のバランスということになりますので、有用性の部分については慎重に検討が必要でしょう。

マンションの駐車場問題(6)「駐車場使用料」

  看板


区分所有者の共有資産であるマンション敷地内の駐車場を、一部の区分所有者が契約により使用する場合には、駐車場の使用者と非使用者の負担の公平を図るため、駐車場使用料を徴収するのが通例です。

さて、ではこのマンションの駐車場使用料金ですが、皆さんのマンションではどのように決めていますか?

駐車場使用料も地域によって格差がありますから、当然周辺の民間駐車場の相場が基準になると思いますが、その場合


①周辺民間駐車場使用料よりも割安に設定する。

②周辺民間駐車場使用料と同水準に設定する。

③周辺民間駐車場使用料よりも割高に設定する。

の3パターンが考えられます。

 

①の割安に設定する場合ですが、これはマンションの管理組合は営利組織ではないので、周辺相場からは割安に設定しようというものです。

しかし、使用希望者のほとんどが使用できる環境であれば良いですが、逆に駐車場台数が少ない場合は、マンション内の駐車場を使用できない者の不公平感が高まる危険性があります。

 

②の同水準に設定する場合は、①のように使用できない者が不公平感を持たないように、周辺相場にあわせた使用料とするものです。

 

③の周辺相場より高めに設定する場合は、周辺駐車場より敷地内駐車場の利便性が良い分、使用料を高めに設定するというものです。

 

私はこの③番の方法はとても良い決め方ではないかと思っております。

駐車場は自宅に近いか否かで、利便性が大きく異なります。

荷物が多い時や、子供お年寄りのいる家庭、また天候が悪い時など敷地内の駐車場はとても便利です。

私も以前、周辺駐車場を借りていたことがありますが、子供が小さかったので車で出掛けるときは事前に駐車場へ車を取りに行き、また帰宅時には家族を降ろしてから駐車場へ車を置きに行くという、とても面倒なことをやっておりました。

その頃、「あ~、敷地内の駐車場ならどんなに便利だろうか」とよく思っていたものです。



ですから、私は敷地内の駐車場は周辺相場より2割程度高く設定しても良いのではないかと思います。

例えば周辺駐車場相場が1万5千円/月だとすると、敷地内が1万8千円/月

月3千円で利便性を買うかどうかの選択ですよね。


これって少し悩みますよね。もしこの3千円が高いと思う人は、周辺駐車場を借りるでしょうし、「いや、敷地内で3千円プラスなら安いものだ!」と思う人もいるでしょう。

要は「敷地内の駐車場が絶対にお徳!」とは言えない状態にするのです。


このように使用者を悩ませる位の絶妙な価格設定を行うと、駐車場を借りられない居住者との間の不公平感も随分と緩和されるのではないでしょうか?


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ある管理組合の話しですが、上記の①のように敷地内駐車場の方が割安に設定されていて、不公平感を是正するために、差額分を管理費から周辺駐車場使用者に補填していました。

例えば敷地内が1万5千円で周辺駐車場が1万8千円とすると、差額3千円分×周辺駐車場使用台数分を管理費予算から各個人へ補填していました。

 

一見、公平なようですが、これは非常に問題があると思います。

なぜかと言うと、全ての区分所有者が駐車場を必要としている場合を除き、駐車場を必要としない区分所有者からすると、駐車場を必要とする区分所有者だけに一般会計から支出をしているということになり、一部の区分所有者のためだけに便宜を図っている と言うことになるからです。


簡単に言えば、共用部分の管理を行うという全員のためのお金を、なぜ駐車場使用者だけのために使うのか?という問題です。

 

もし、このような手法を用いる場合は、③のように割高に設定して、周辺相場相当額はちゃんと管理組合の収入にして、差額分を周辺駐車場使用者に補填するという仕組みが必要でしょう。


こうすることによって、駐車場を必要とする居住者の間だけで相互補填を行い、組合収入には影響させないと言うことが明確になります。


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マンションの駐車場問題(5)「判例紹介」

法廷  


さて、今日はマンションの駐車場問題で裁判になった主な事例をご紹介していきます。

「争いごと」というものは非常に白黒がつけ難いものであり、大概双方にそれなりの言い分があるものです。

最近は法律問題をあつかったTV番組が増えているようですが、法律も解釈の仕方によっては結論が変わってきます。

本来争いごとは、話し合いで解決するにこしたことはありませんが、お互いに折り合いがつかなければ、やむを得ず訴訟ということになってしまいます。

さて、今回は駐車場に関する事例を3つ紹介しましょう。



(1)抽選入替え方式使用者固定方式に変更した事例


これとは逆に

(2)使用者固定方式抽選入替え方式に変更した事例

最後に

(3)当初からの使用者をそのままにして、使用者固定方式を細則で定めた事例
です。 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

(1)抽選入替え方式を使用者固定方式(半永久使用)に変更した事例

   これは神戸地方裁判所の平成3年6月28日の判決です。

 

【事実関係】

・Aマンションは戸数35戸の小規模マンションであり、駐車場台数は17台分しかない。


・駐車場の使用ルールは「駐車場取扱要領」で定められており、1年交代の抽選制としていた。


・管理組合総会で出席者30名中、賛成21名の過半数決議で、利用期間は1年で引き続き利用を希望する者には継続使用をさせるという半永久制に変更した。

 

【判決の内容】

①共用部分である駐車場を、特定の区分所有者に専用使用させる権利を与えることは、共用部分の変更に当る


②「駐車場取扱要領」は形式的にも実質的にも管理規約であるから、これを変更するには規約改正のための決議要件である特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成)が必要である。


③よって、管理組合総会の普通決議(過半数の賛成)による半永久制への変更は無効である。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


2)使用者固定方式(半永久制)を抽選入替え方式に変更した事例

   これは埼玉の浦和地方裁判所の平成5年11月19日の判決です。

 

【事実関係】

Bマンションは戸数375戸のマンションで、駐車場台数は戸数の約3分の1である126台しか無い。


・入居後1年の第2回管理組合総会で、駐車場使用細則を過半数決議で、2年毎の抽選による入替え制にした。


・これに対し入居当初から駐車場を使用していた組合員が「分譲会社からは既得権であると説明されていた」として、本件は規約事項であり、共用部分の変更であるから特別決議が必要であるとして訴えを起こした。

 

【判決の内容】

①専用使用権の期限は1年間であり、その後は双方に異議がなければ更新されるというものである。

②管理組合の総会で「駐車場の使用契約期間は2年、使用契約者の選定は抽選による」と定められたことから、この時点で管理者である管理組合から駐車場の使用者に対して異議が述べられたと同じ効果が生じる


③よって、この管理組合の総会決議が可決された時点で、専用使用権は消滅したものとする


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



(3)当初から使用者をそのままに使用者固定方式(半永久制)に細則で定めた事例

   これは那覇地方裁判所の平成16年3月25日の判決です。

 

【事実関係】

Cマンションは戸数21戸のマンションで、駐車場は12台分しかない


・管理規約等には駐車場の使用方法や管理運営に関する規定は存在しなかった


・実際の運用は先着順で駐車場使用契約を締結し、満車以降は予約待ちとなり、空きが出たときのみ、順次契約できるという方式をとっていた。


・その後、既に駐車場を使用している組合員らが、駐車場の管理規定ないことに不安を覚え、管理組合総会で現状の運用ルールを維持する内容の駐車場使用細則を駐車場使用者12名の賛成多数による過半数決議により可決。


・これに反対する人たちが、駐車場使用細則は規約に該当するため、特別決議が必要との訴えを提起した。

 

【判決の内容】

①「駐車場使用細則」は実質的に特定の区分所有者に、駐車場の優先使用権を認めている内容となっていて、共用部分である駐車場の性質に反するものである。


②したがってこのような優先的な使用を認めることを内容とする規定事項は、規約にさだめることが相当である。

③よって、過半数の賛成による「駐車場使用細則」決議は無効で、特別決議が必要である



○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


さて、以上の判例をまとめると、



抽選制⇒半永久制=特別決議が必要(規約変更にあたる)

半永久制⇒抽選制=普通決議で変更が可能(永久使用権は保護されない)

制度なし⇒半永久制=特別決議が必要(規約に定めることが相当)

ということになります。


この結果を見ると、裁判所では共用部分が一部の者の利益となるようなケースでは、非常に厳しい制約を課しているようです。


特に2番目の半永久制を抽選制に変える場合、特別決議が必要無いという判例からすると、管理組合としては不公平感を緩和するような仕組み を考えざるを得ないというところでしょうか。



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外壁崩落事故

外壁  

 

マンションの駐車場問題について特集している途中ですが、先日オフィスビルの外壁が崩落するという事故がありましたので、割り込み記事を書きます。

この事故については新聞やニュースでご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 

今回の事故はたまたまオフィスビルでしたが、マンションでも当然起こりうるものですから、今日はこの「外壁崩落」について少し考えてみましょう。

 

(以下 産経新聞記事より)

 

ビル外壁崩落 2人重軽傷

 

14日午後零時40分頃、東京都中央区新川のオフィスビル「ニューリバービル」(地上8階、地下1階建て)の5階から6階部分の外壁が崩れ落ち、近くを歩いていた同ビル1階の会社に勤務する女性(40歳)に破片が直撃した。

女性は頭を打って重症。乗用車で通過中の男性(53歳)も急ブレーキをかけた際に、右ひざを打ち軽症を負った。

警視庁中央署の調べでは、崩落したのはコンクリートとタイル製の外壁が斜めになった部分。高さ約7m、幅約5m、厚さ約5cmにわたり、重さ計900㎏が剥がれ落ち、破片が女性の頭や男性の車を直撃、車体に突き刺さった。

ビルは築15年で、崩落当時、工事などはしていなかった。

同署は現場を立ち入り禁止にするとともに、崩落原因を調べている。

 

現場は東京メトロ茅場町駅から南東約200mのオフィスやマンションが立ち並ぶ一角にあり、近くの自営業、大地浩美さん(40歳)は「ミキサー車から砂利が落ちるような音がしたと思ったら、ドカンという音が響いた」と崩落の瞬間を振り返った。

また、血を流して倒れていた女性を抱え、安全な場所へ動かしたという近くの自動車販売店経営、小林溥明さん(71歳)は「とにかくビックリした」と予想外の出来事に驚きを隠せない様子だった。

ビルを管理するみずほ信託銀行は「原因について調査を大至急進めるとともに、ニ次災害がないよう対策を考えていきたい」と話している。

 

まずは、事故で被害にあわれた方に、心よりお見舞い申し上げます。

 

さて、この外壁が崩落したビルですが、築15年ということですから、そんなに古いビルというわけではありませんね。平成に入ってからの築造ですから。

 


さて、外壁についてですが、ビルやマンションの建設工事では、コンクリートの躯体を保護するために外壁仕上げを行います。

外壁の仕上げ方法としては

①タイルや石材を貼る方法

②吹付タイルで仕上げる方法

が一般的です。

 

今回の外壁崩落は、①のタイル壁が崩落したもののようです。

タイル貼りの場合、タイルの材質は陶磁器で粘土を焼成した四角い薄板です。

耐久性、耐火性、耐科学性があって、且つ水に強く、劣化しにくく、汚れが目立ちにくい。しかも美観に優れていて、高級感があることから、多くのビルやマンションに使用されています。

↓タイル貼りの外壁

1

 

一方、②の吹付タイルというのはタイルのような陶磁器ではなく、アクリル系やポリウレタン系等の吹付材を塗布するもので、タイル貼りに比べると施工費や材料費が安く上がりますが、ひび割れ等の劣化や汚れが目立ちやすいというデメリットもあります。

 

↓吹付タイル


さて、今日は剥落の原因を究明するのではなく、もしマンションでこのような事故が起きた場合、誰にどのような責任が生じるかという部分について考えてみたいと思います。

 

故意(わざと)や過失(うっかり)で他人に損害を与えた場合は、賠償責任が生じます。

例えばベランダから過って植木鉢を落として歩行者を怪我させたような場合は、植木鉢を落とした本人に責任があることは明白ですね。

 

では、マンションの壁が崩落して歩行者を怪我させたような場合はどうでしょうか?

マンションの外壁は共用部分ですから、マンションの管理組合の責任ということになります。

マンションの管理組合とは言っても、その構成員はマンションの区分所有者全員ですから、もし管理組合で加入している保険や資産で賠償が賄えないような場合は、区分所有者の持分比率に応じて賠償責任が生じます。

 

マンションというと自分の所有する部分は居室(専有部分)だけだと思われがちですが、専有部分以外の共用部分は、他の区分所有者と共有しているだけで、その管理責任は持分に応じて負わなければならないのです。

マンションは戸建住宅と比べ物にならないほどの建物の高さを有します

 

高層マンションでは数十メートルの高さです。この上階から物を落とすと、大変な事故になる可能性があり、それだけ第三者に損害を与えるリスクが高い構造物といえます。

 

先日、尼崎で起きたJR西日本の事故では、マンションが被害者になりましたが、同時にマンションが加害者になることも十分あるのだという事を忘れてはいけません。

管理組合としては、マンションとしての資産価値を維持するということとは別に、第三者に対する被害防止という観点から、共用部分の管理を行うことが肝要です。


吹付

マンションの駐車場問題(4)「既得権」

 大規模

 

さて、3回に渡り駐車場の構造や形態の違いと言った「ハード面」について、お話をしてきましたが、今回から駐車場問題の本丸ともいえる「ソフト面」

すなわち、駐車場の管理における諸問題について考えていきたいを思います。

 

さて、ここでお話しする前提条件ですが、

・駐車場は管理組合と居住者で「駐車場使用契約」を締結する。

・駐車場設置台数よりも駐車場使用希望者の方が多い。

 (駐車場が空いているマンションでは、抽選等の問題は生じないから)

という、一般的な形態の場合について、検討していきましょう。

 


■駐車場使用者の決め方

 

【公平の原則】

通常マンションの駐車場は、各区分所有者が共有している敷地に設置されているわけですから、区分所有者が駐車場を使用することについては、公平に運用しなければならないということは当然のことです。

 

最近では「駐車場100%完備」といった分譲マンションも増えてきていますが、多くのマンションでは、全戸分の駐車場が確保されていないため、何らかの方法で使用者を決定しなければなりません。

 

この決定方法には、

(1)定期間抽選方式

(2)使用者固定方式

という2つの形態が見られます。

 

【定期間抽方式】

これは、1年とか3年といった一定期間を使用単位として、抽選で使用者を決定する方法です。

この方式の場合、使用期間を短期間にすることは、抽選の観点からは公平性が益すと思われますが、マンションの周辺で月極め駐車場などが多くあり「いつでも比較的簡単に駐車スペースが確保できる」ということが条件になるでしょう。

そうでなければ、駐車場の入れ替えの度に、抽選にもれた人が自動車保管場所を確保できないと言った状況になり混乱が生じるからです。

マンションによっては、入れ替え時の混乱を少なくするために10年に1度の抽選を行っているところもあります。

 

【使用者固定方式】

分譲当初に使用者を抽選等で決定し、転居や自動車を手放した等による空きが生じた場合にのみ、待機または抽選によって新しい使用者を選ぶ方式(半永久制)です。

この場合、一度駐車場使用を獲得した入居者は、引越したり車を手放さない限りずっと駐車場を使用することができ(詳細な規則については駐車場使用細則等で定められている場合が多い)、後から入居してきた居住者との間で不公平感が生じる懸念があります。

マンション管理においてよく問題となるのが、この既得権についてです。

特に周辺の月極め駐車場より敷地内の駐車場の使用料が安い場合などは、この不公平感は更に増大します。

 

 

 

平成15年度マンション総合調査結果報告によりますと、一定期間ごとに入れ替えている管理組合は、たったの2.2%しか無く、同報告の「管理規約上のトラブル」で「駐車場使用方法に関するトラブル」が13%と高い比率を示しているのは、これら駐車場の使用者の決定方法についてだと推察されます。

 

ちなみに、自転車置場についても同様の問題があり、あるマンションでは入居順で自転車を置かせているため、古い入居世帯では一軒で5台もの自転車を置いているのに、途中から入居してきた人は自転車置場が一杯という理由で、1台たりとも自転車の所有を認めないという極端な例もあるようです。

 

駐輪場  


おそらく、管理組合も「これからは自転車は1世帯1台にしましょう」と提案したのでしょうが、既に複数台の自転車を所有している入居者から「では、置けない分の自転車は捨てろという事か?捨てざるを得ない自転車の分は補償してくれるのか?」とねじ込まれたのではないでしょうか?

正に既得権戦争と言えます。

マンション管理において、この既得権ほど厄介なものはありません。

社会生活を送る中で不満というものは沢山あります。

仕事上の不満、学校での不満、不親切な役所への不満etc。

これらの不満は、不満な状態に接している状況では非常に不愉快でありますが、不満の状況から距離をおくことで、ストレスを和らげることができます。

例えば、仕事での不満も飲みに行って気分転換するとか、役所の窓口で長時間またされて腹が立っても、用事が済んでしばらくすれば、よほど深刻な問題以外は急速に忘れていくでしょう。

しかし、マンション管理に関する不満は、そこで生活する以上、最も日常に近い部分での不満でありますから、忘れようと思っても、つい思い出してしまい、ストレスが蓄積する傾向にあります。

例えば、駐車場の不満も一歩家を出ると、いやでも駐車場が目に入りますし、お隣りさんが既得権者であれば、顔を合わせるたびに「不愉快」な気持ちが生まれるかもしれません。

本来であれば様々な不満によるストレスを癒すべき「わが家」なのに、そのマンションの管理に不満があるということはとても辛い状況です。

マンション管理の問題が泥沼化する背景には、このような要因があるのではないでしょうか?

さて、次回は駐車場使用者の決定に関する判例をご紹介することにしましょう。

 

マンションの駐車場問題(3)

機械式駐車場1  

 

さて、今日は≪立体駐車場≫の特徴についてです。

前回のおさらいですが、≪立体駐車場≫には<自走式><機械式>がありましたね。

 

<自走式>

自走式とは、「自走」つまり格納位置まで自力で走行するシステムのことを言います。

自走式立体駐車場はデパートやホテルの地下駐車場、ターミナル駅の地下駐車場、スーパーや量販店の屋上駐車場などで見ることができますが、これらは一般的に鉄筋コンクリート造で、建物全体あるいは建物の一部を駐車場として利用しているものです。

建物の一部とは、地下だけが駐車場だったり、ジャスコのように屋上に複数階の駐車場があるようなものを指します。

建物全体というのは建物全体が駐車場ビルになっていて、スロープで上り下りするものです。

駐車場が込んでいると、最上階までグルグルと上らされますね。

 


最近では軽量鉄骨で組み立てられた自走式立体駐車場も増えてきており、マンションでも見かける事が多くなりましたが、パチンコ店や郊外型量販店などでもよく見かけます。

立駐

 

 

自走式はスロープなどにより、車が自分で駐車位置まで移動するので、構造は比較的単純ですが、建物の全部または一部であったり、敷地に別棟で建設をするため建設コストがかかりますので、後から駐車場を増設するような場合は、かなり大掛かりな工事と費用負担を覚悟しなければなりません。

 

<機械式>

車の格納位置への移動の一部または全部を機械が行うものが機械式駐車場です。

鉄筋コンクリート製の地下ピット(くぼみ)を築造して、機械と油圧やチェーンによって車の昇降を行い入出庫するものが機械式立体駐車場です。

上下2段のパレット(車を載せる台板)に車を2台格納する「2段方式タイプ」や、上中下の3段のパレットに3台の車を格納する「3段方式タイプ」があります。



機械式3段

 

このような昇降・ピット式駐車場では、地上から2段目以上のパレットの車を出し入れするために、地下ピットの深さを確保しなければなりません。

例えば、2段式なら地下に1段分、3段式なら地下に2段分の深さが必要です。

 

その他の機械式駐車場では、同じピット式でもパレットが横に移動して、よりスムーズな入出庫ができるタイプや、より大規模で大量の台数を収容できる<タワー式>などがあります。

 

さて、駐車場を増設する必要があり、敷地にあまり余裕がない場合は機械式駐車場が有効だと思われますが、一方で機械式駐車場のデメリットもあります。

 

まず、

①メンテナンスに手間がかかる

上下昇降型の機械式駐車場は、一般的にチェーンや油圧によってパレットを稼動させます。

マンション管理組合の役員を経験された方ならお分かりと思いますが、このような動力型の設備はメンテナンスにかなりの費用がかかります。

エレベーターの保守管理費用なども管理組合にとっては大きな負担となっていることを考えると、さらに保守費用の負担が増加することとなります。

本来、駐車場の使用料収入は管理組合にとって重要な修繕積立金の積立原資となるはずですが、場合によっては機械式駐車場のメンテナンスや改修工事で持ち出しとなってしまう危険性もあります。

 

②意外と老朽化が早い

パレット型の機械式駐車場が屋外に設置されている場合、雨ざらしとなりますので、鉄骨部の錆びなどによる老朽化が問題となります。

特に深刻なのチェーンの錆びは、機械の稼動に直接影響がでるため深刻な問題です。

また、中段、下段のパレットに格納されている車は、上から落ちてくる錆び汁で汚れてしまう可能性もあります。

 

③騒音問題

機械式駐車場が住宅部分に近接している場合、パレットを上下させるときの機械音が問題になることがあります。特に深夜や早朝の入出庫では安眠妨害となってしまいます。

設置当初はほとんど無音でも、メンテナンスが悪かったり、機械が老朽化してくると騒音が大きくなることもあります。

 

④電力ダウンのリスク

機械式駐車場の入出庫は電力を使用しますので、停電している間は地下部または2段目以上の車は出し入れができません。

一時的な停電であれば、さほど問題にはならないでしょうが、災害発生時には重大な問題が発生する場合があります。


このプロフィールに記載しておりますとおり、私の実家は「阪神大震災」を経験しましたが、このとき、ライフラインが寸断され、しばらく電力がストップしてしまいました。

実家のマンションには地下に自走式の駐車場があり、その一部にピット式の機械式駐車場が設置されていたのですが、水道管の破損や停電による湧水ポンプのストップで、地下駐車場が冠水してしまいました。


停電しているので、機械式駐車場を稼動させることができず、地下部分に格納されていた自動車は水没してしまい、所有者はなすすべもないということがありました。

さて、もちろん敷地を有効活用するということでは、機械式立体駐車場は魅力的なシステムでありますが、前述のようなデメリットもありますので、管理組合で増設を検討する際は、メリットとデメリットを十分に考慮して決めることが肝要かと思われます。