マンションの防犯対策(6)
前回の続きで、 『犯罪者の心理』 についてです。
これは、実際に捕まった賊に警察がヒアリングを行った結果をまとめたものです。
Q:破壊しにくいドア鍵は?
カード鍵・・・・・・・・・・・・・ 31%
彫り込み箱鍵・・・・・・・・・ 27%
電気鍵・・・・・・・・・・・・・・ 24%
面付け箱鍵・・・・・・・・・・ 24%
この4種類の鍵の中では特に突出しているものはないようです。
ここで、「彫り込み箱鍵」等、普段聞きなれない鍵の形式が出てきましたので、ちょっと勉強してみましょう。
(開けられやすい鍵)
上の二つの鍵は一般的に開けられやすい鍵といわれています。
円形の断面を持つ構造から、円筒錠と呼ばれています。
ドリルによる丸穴だけで取り付けされる容易さから一時期、普及しました。
特に左側のモノロックは本締り機構がなく(デットボルトがない)、またシリンダーがノブに内蔵されていることから、破壊攻撃に対して弱く、外部回りの使用では本締り補助錠を併用することをお薦めします。
(開けられにくい鍵)
これらは本締り機構、ドアノブ(ハンドル)を共にケース(錠箱)に内蔵することから、箱鍵(ケースロック)と呼ばれ、彫込み型と面付け型があります。
左側の彫り込み型とは、ドアの厚みの中にケースを収める形式で、玄関などの外回りから書斎、寝室など施錠の必要な個所に広く使用されています。
錠(lock)の部分がドアの表面に出ないので、すっきりとしたデザインになりますので人気があります。
右側の面付け箱鍵は、箱鍵がドアの表面に付いている形状ですが、これは表から一番遠くに箱鍵があるため、『バールによるこじ開け』に対して最も効果的な鍵といわれています。
Q:補助鍵付きの窓からの侵入
用心して諦める・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・33%
鍵の付け具合によっては諦める・・・・・・・・33%
ガラスを破って侵入する・・・・・・・・・・・・・・33%
補助鍵が効果的に付いていた場合、約6割以上の賊が諦めると回答していますので、一定の抑止力があると考えられます。
Q:オートドアロックのマンションの場合
用心して諦める・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73%
他の侵入手段、方法を考える・・・・・・・・・・・・13%
宅配便を装って居住者に開錠させる・・・・・・・ 9%
居住者の出入りを利用する・・・・・・・・・・・・・・ 4%
オートロックの効果がこれほどとは驚きです。
以前の記事で「オートロックの建物に侵入することは、それ程難しいことではない」と記載しましたが、賊に対してはかなりの抑止力になるようです。
しかし、逆に言えばオートロックの無いマンションは賊の標的になりやすいということが言えるでしょう。
さて、ここで前回の結果を含め、賊が侵入しにくい、つまりセキュリティの高い集合住宅をまとめると、
①共用出入り口がオートロック化され、容易に賊が出入りできない。
②各所に防犯センサーや監視カメラが設置されている。
③玄関扉には防犯性の高い鍵が設置されていて、ワンドア・ツーロックとなっている。
④窓ガラスに防犯ブザーや補助鍵等が設置されており、破壊しないと侵入できない。
⑤犯行が発生しても10分以内に警備員等が駆けつける。
といったイメージです。
マンションの防犯対策(5)
マンションの防犯対策について特集しているところですが、先日の日経新聞朝刊(9月7日)に、
「エレベーター内 暴力行為を検知」
という記事がありました。
三菱電機ビルテクノサービスが、防犯カメラを使ってエレベーター内の暴力行為を自動検知する技術を開発したというものです。
いったい暴力行為をどのようにして自動検知するのでしょうか?
「乗り降りなどエレベーター内での一般的な行動パターンと画面上の人の動きを照らし合わせ、暴力行為を検出する仕組み」
だそうです。
具体的な技術は
「防犯カメラが撮影した画像を4800に分割、各ポイントの色や明るさの変化で人の動きを認識する。」
というものですが、このシステムによって、暴力行為だけではなく、エレベーター内での待ち伏せをしている不審者や、急病で動けなくなった人も検知できるそうです。
暴力行為を検知するとブザー音やアナウンスで警告をし、危険度が高そうな場合は、最寄り階に停止してドアを開き、同時に暴力行為を詳細に記録する機能もあるということなので、密室で危険が潜むといわれるエレベーターの新しいセキュリティーとして注目されています。
詳しくは
http://www.meltec.co.jp/press/pdf/050906.pdf まで。
さて、ここからは前回からの続きです。
今日は「犯罪者の心理」について考えてみましょう。
防犯対策に完璧というものは無く、新しい鍵やシステムを導入しても、賊の侵入技術がその上を行き、またそれに対抗する新しい防犯グッズが誕生するという、まさにいたちごっこです。
また、防犯対策には限度があって、例えば予備錠を10個付ければ確かに防犯効果は高まるでしょうが、出かける時に10個の鍵をかけ、帰宅の際にまた10個の鍵を開けるということでは、普通の日常生活は送れませんね。
空き巣でも自動車泥棒でもそうですが、プロの賊がその気になれば、大抵の鍵は開けられてしまいます。
しかし、賊も捕まりたくありませんから、なるべくリスクを排除しようとします。
逆に言えば、賊が嫌がる環境を作れば、賊のターゲットから外れる可能性が高まり、結果防犯効果が上がるということです。
では、賊が嫌がる環境とはどのような環境か?
それには
賊に直接聞いてみるのが一番!
という訳で、ここに「逮捕されたマンション窃盗犯に対するヒアリング結果」という、非常に興味深い資料があります。
要するに本当に捕まった泥棒から聞いた生の声ということです。
池波正太郎作品の『鬼平犯科帳』でも、長谷川平蔵は捕らえた賊の中で改心した者を密偵として活用し、大きな成果を上げました。(あくまで物語りですが・・・)
※資料の出典は警視庁生活安全部の講演会資料からです。
Q:犯行を諦める侵入のための所要時間は?
5分未満 58%
5分以上、 10分未満 20%
10分以上、15分未満 13%
15分以上 9%
約8割の賊は開錠作業などにかかる時間が10分を超えると、その住戸への侵入を断念するという結果です。
賊の侵入作業に5分間持ちこたえられる防犯設備を設けるだけでも、約6割の賊は侵入を断念するわけですから、完璧な防犯設備でなくても、ある程度時間稼ぎができるだけで、十分効果があると思われます。
Q:犯行にかける時間は?
5分以内 29%
5分以上、10分未満 40%
10分以上、15分未満 9%
15分を超え、20分未満 16%
20分以上 6%
10分未満の合計で約7割ですから、賊は非常に短時間勝負です。
ちょっとしたゴミ捨てなどでも施錠が必要ということの裏づけです。
Q:侵入しにくい防犯設備は?
防犯センサー 62%
防犯ブザー 51%
監視カメラ 27%
補助鍵 27%
※複数回答
監視カメラよりも防犯ブザーのように音の出る設備が効果的のようです。
思うにマンションの監視カメラはリアルタイムに不審者のモニタリングをしている訳ではなく、犯行が行われた後、映像を確認するためのものですから、賊にとっては直ちに侵入の障害になるものではありません。
また、監視カメラの設置場所も1階のマンションの入口部分等が多く、賊が実際に開錠行為を行う各住戸に設置されていないことが多いので、それほど大きな抑止力にはなっていないようです。
ただし、防犯センサーや防犯ブザーはあまり高感度にしていると誤作動の原因となり、近所迷惑となります。また、誤作動を防止するためにセンサー機能を切断するといったことを行う組合もあるようですが、これでは本末転倒ですね。
残りのアンケート結果については、次回ご紹介します。
それではまた。
マンションの防犯対策(4)
さて、今回はマンションの犯罪についてごのような実害事例があるか?という点について考えてみたいと思います。
1.敷地内全域
● 放火や建物の損壊
● 悪質な落書き(スプレー等によるもの)
● 不要なビラ、チラシのポスト投函
● インターホンによる過剰セールス
○放火については非常に悪質な犯罪であり、深刻な被害をもたらす危険性が大きいので、何としてでも防止しなければなりませんが、放火犯はある特定の物件を狙って放火するというよりは、放火しやすい物件を物色して放火するケースが多いようです。
たとえば、共用廊下に無造作に古新聞などの燃えやすいものが置いてあったり、敷地内に中身の入ったオイル缶等、引火性の物が放置してあるといった場合、放火犯に狙われる危険性が高まります。
○落書きやチラシの投函は人目の少ない深夜に行われることが多いようです。
落書きについては落書き防止塗料という、落書きをされても簡単に汚れを落とせる塗料というものも販売されておりますが、重要なことは落書きされた場合、なるべく速やかに落書きを消すということです。
以前、「割れ窓の法則」(学校で1ヶ所の割れ窓を放置すると、加速度的に窓の破壊が進んで、学校荒廃につながる)をご紹介しましたが、国道のグリーンベルト(植樹帯)におびただしい量のゴミ(弁当かす、雑誌、空き缶など)が捨てられているいるのもこの法則によるものだと思います。
「これだけゴミがあるのだから、自分が少しくらい捨ててもいいだろう」「いっぱい落書きがあるから、自分も落書きしてもかまわない」といった悪循環におちいります。
チラシについても、現実的には防ぎようがありませんが、防犯カメラを設置するとか、警察に通報する旨表示をするなど、管理組合として毅然とした意思を表示することが肝要です。
清潔に管理されているマンションには、なかなか悪戯しにくいものですから、このような被害にあった場合は速やかに対応するように心がけましょう。
2.廊下・エレベーター
●EV内での痴漢行為
●EV内での強盗
●廊下からルーフバルコニー等を経由しての住居侵入、その後下層階への飛び降りによる再侵入
EV内の犯罪は以前から危険が指摘されていて、最近は防犯カメラを設置する管理組合も多いようです。
少韓国のマンションでエレベーターに乗っていた女性が、二人組みの強盗に殴られて財布を強奪されるというショッキングな防犯カメラの映像をニュースで見た事がありますが、恐ろしいですね。
決して防犯カメラを設置すれば100%防げるというものではありませんが、賊としてもなるべくリスクを排除したいはずなので、その場所での犯行をあきらめさせるという抑止力にはなると思われます。
3.玄関、バルコニー
●ピッキング等、玄関鍵を破っての侵入、盗難
●ゴミ捨ての隙をついた侵入
●待ち伏せ強盗
●賊の宿泊(ゴールデンウィーク中)
●コンセント内等への盗聴器の設置
●バルコニー側より隣接物件への侵入、強盗
賊の宿泊とは、賊が忍び込んだ家で数日間生活をしたという実例です。
なぜこのような事が起きたかというと、賊は壁掛けのカレンダーから家族の旅行情報を入手していたようです。
我が家もそうですが、家族が情報を共有するためにカレンダーに色々な情報を書き込んでいます。
そうすると侵入した賊は、カレンダーから居住者の不在情報を入手して、ゆっくりと自分の仕事ができるというわけです。
実際に空き巣に入られた人のインタビューを見たことがありますが、その精神的ダメージは相当なもののようです。
賊とは顔を合わせてはいないものの、またいつ侵入されるか、いったい見知らぬ賊が、この家で何をし、何に触れたのかと思うだけで、不眠症やノイローゼになって引越しをするケースもあるようです。
賊が家に数日間滞在したなどといったら、、その精神的被害はどれほどのものか、計り知れないでしょう。
あと、ゴミ捨ての間の賊の侵入です。
マンションに限らず、ゴミを捨てに行く時に施錠をする人はどれくらいいるでしょうか?
多分、大半の人は開けっ放しでゴミ捨てに行くでしょう。
それは、「たった数分だから」という安心感だからでしょうが、往々にしてマンションの住民同士で井戸端会議になるものです。
この隙を狙っている賊もいるのです。
この場合、空き巣というより、もし住人が帰ってきてしまったら居直り強盗になってやろうと思っている場合が多く、外国人犯罪者に多いようです。
4.駐車場、駐輪場等
●バイク、自転車の盗難
●車両盗難
●車の後部座席側面の小窓を破壊しての車内侵入
●車内の現金、カード類の盗難
●タイヤ、ホイールの盗難
●オーディオ類の盗難(ナビゲーションシステム含む)
最近の大型スクーターブームで、中高年の方の二輪車人口が増加傾向にあり、マンションの駐輪場でも中型以上のオートバイが目立つようになってきました。
バイクは4輪の自動車に比べて圧倒的に盗難される確立が高く、ハーレーダビットソン専門の窃盗団もいるほどです。
バイクは重量が4輪くにらべて軽く、専門の窃盗団にかかると、クレーン付きのトラックを持ってきて、あっという間に盗んでいってしまします。
また、盗品バイクの処分ですが、バイクは車のように鉄板のボディーがないため、部品をバラバラにして海外に持ち出しますので、窃盗団にとっては発覚しずらいという利点があります。
最近では車のアルミホイールやタイヤ、カーナビやオーディオ類の盗難が増加していますが、理由の一つとしてネットオークションの普及があります。
以前であれば盗品は質屋やリサイクルショップに売るというのが常套手段でしたが、これらの方法では買い取る相手方がプロであるため足がつき易すく、賊にとっては危険が伴う処分方法でありました。
しかしネットオークションの普及で、素人との取引きの場が広がったことから、盗品の処分経路が広がり、窃盗犯罪を助長している側面があります。
また、最近では個人情報の保護が叫ばれていますが、カーショップで高級オーディオを購入し、取り付け作業を依頼したところ、アルバイト従業員がその車の車検証から所有者の住所を確認し、取り付けたオーディオを盗みに行くといった事例がありました。
賊はあらゆるところから情報収集をしています。
マンションのゴミ捨て場に高級パソコンが梱包されていたダンボールが、宅配便の伝票が付いたまま捨てられていて、賊がその伝票からその家に空き巣に入り、まんまと新品のパソコンを盗み出したとう事例があります。
用心をするに越したことはありませんから、カーショップに車を預けるときは車検証を入れておかないとか、ゴミには自分の個人情報がないことを確認したほうが良いと思います。
まさに、壁に耳あり 障子に目ありです。
マンションの防犯対策(3)
今日はマンションの「どこ」が「なぜ」危ないか?というマンションの弱点について、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
1.敷 地
マンションは戸建住宅と違って敷地内に不特定多数の人々出入りできます。
建物内についてもオートロックがなければ自由に出入りできますし、仮にオートロックがついたマンションであっても、前回の記事で書いたようにその気になれば侵入することは容易です。
空き巣などプロの窃盗犯は手当たり次第に盗みに入っているわけではなく、極力捕まるリスクを排除しようとするために、慎重に事前調査を行うようです。
その意味ではマンションという構造は賊にとって事前調査のしやすい物件ということになります。
また、居住者全てが他の居住者を把握することが困難で、不審者と居住者のと識別がしづらいという問題も大きな弱点ですね。
2.廊 下
共用廊下の手すりはコンクリートの壁や目隠し、風防のためのパネルが設けられていることが多く、地上や下層階から上層階の廊下の状況がわかりにくい構造になっています。
このため、賊にとっては身を潜めやすい環境になっていることが多いのです。
余談ですが、某大手警備会社の方に伺った話しです。
あるマンションの方が
「自分のマンションは駅の目の前にあって、共用廊下が駅のホームに面していて、絶えず多くの人の目に触れるため防犯上優れている」
とおっしゃっていたそうですが、意外とそうではないようです。
確かに駅のホームにはたくさんの人がいますが、その風景に慣れている人にとっては、いちいちマンションの廊下などには注意を払わないようです。
もっともマンションの廊下で大騒ぎしているとか、煙が出ているといった状況なら別ですが、多少怪しいとおもわれるくらいのことなら、ほとんど気がつかないケースが多いそうです。
また、怪しいと思ったとしても、そこから警察に連絡するといった行動に移るということはほとんど期待できないということです。
映画「Shall We ダンス?」で役所広司が駅のホームからダンス教室の草刈民代に気がついたのは、草刈民代に興味があったからで、人間強い興味がなければ自分に関係の無いことにはあまり関心を示さないということですね。
↑映画「Shall We ダンス?」
アルコープについては前回の記事でも書きましたが、玄関扉の設置部が廊下歩行部から少し奥まっている形状のものですね。
これだと廊下を歩いていて、その扉の前を通過しないかぎり、玄関扉の様子がほとんどわかりません。
まあ、わからないようにわざわざアルコープにしているのですから当然ですが。
賊にとっては自分の姿を発見されにくいので、扉の解錠作業に落ち着いて取り組めるという利点があります。
3.住宅形状
マンションの形には様々なものがありますが、下の階より上の階の住居が少なくなっているセットバックという建物の場合、廊下などに有効なフェンスがなければ賊が侵入するための格好の入り口となってしまう場合があります。
↑セットバックの建物
私が子供の頃住んでいたマンションはルーフバルコニー付きだったのですが、共用廊下の腰壁を乗り越えて、壁伝いに回り込むとルーフバルコニーにたどり着く構造になっていて、子供たちで鬼ごっこをする時などはこのルートを使ってよく遊んだものです。
今から考えるとなんて危険なことをしていたのかと冷や汗が出ますが・・・。
マンションでは統計的に1軒の賊の侵入を許すと、隣接物件の被害発生率が非常に高くなるといわれています。
特に左右への移動はバルコニーの手摺壁を使えば比較的容易に他の部屋へ移動できるので、賊としては効率的に仕事?をこなすことができるという訳です。
賊の侵入件数は意外と屋上に近い階やセットバック部からの侵入が多いようです。
高さ的に人目に触れやすい1階は意外と安全と言う意外な統計結果も出ています。
4.駐車場、駐輪場
機械式駐車場や電動シャッター付地階駐車場はともかく、地上置き型のタイプは車上荒らしに遭遇する危険性があります。
少し前のニュースでマンションの駐車場の車のタイヤが、千枚通しで次々とパンクさせられるという事件もありました。
マンションでは戸建住宅と比べて、駐車している車とその所有者の住居に一定の距離があるため、車上荒らしや悪戯に遭いやすいというリスクがあるものと思われます。
また、駐輪場などは屋根が設置されていることが多いため、住戸からは見えにくく、賊からすれば大量の自転車が確実に置いてあり、目的の車種や施錠されていない自転車を発見できる可能性が高いと言うメリットがあります。
5.エレベーター
低層以上のマンションではエレベーターは無くてはならない設備です。
しかし、エレベーターは密室であり、ガラス扉タイプのエレベーターでなければ不審者と乗り合わせた場合、非常に危険な空間となります。
現状の設備では、エレベータ内の防犯カメラをセキュリティー会社の防犯システムに連動させることは困難なようですが、録画タイプのカメラを設置し、その録画画像をエレベーター内のディスプレイに表示するだけで、ある程度の抑止力が期待できます。
以前、渋谷のタワーレコードのエレベーターには監視カメラがついていて、エレベーター内の映像がエレベーター内の上部に設置されたモニターに映されていています。
常時自分がモニターに映っているので、特にやましいことが無いのになんとも落ち着かないという経験をしましたので、このような監視カメラには一定の犯罪抑止力が認められるのではないかと思います。
6.その他
①階段室
エレベーターのあるマンションでは、上下階の移動は通常エレベーターを使うため、階段室の使用頻度が下がります。そのため、賊が潜むエリアとなる危険性があります。
また、未成年者の夜間の溜まり場となる危険性もあります。
②植樹帯
プライバシーを重視するあまり、過度な植樹帯による目隠しは賊にとっては有利な身の隠し場所となります。
③ゴミ捨て場
以前、マンションの敷地内にあるコンクリート平屋造のごみ捨て場所に浮浪者が住みついていたという事例がありました。このような施設では夜間の鍵閉めなどの徹底が必要でうす。
さて次回は、どのような実害事例があるかについてご紹介していきましょう。
マンションの防犯対策(2)
前回の記事でも書きましたが、マンションでの犯罪は住戸への侵入だけではありません。
・駐車場や駐輪場などの敷地内での盗難や破損(自転車泥棒、車上荒らしなど)
・外部侵入者による犯罪行為(痴漢、落書き、器物破損)
なども深刻な犯罪です。
さて、戸建住宅と比べた場合、防犯に対するマンションの弱点はどのような点でしょうか?
①敷地が広く侵入が比較的容易
最近ではオートロックがついたエントランスが当たり前になってきていますが、オートロックがついているマンションでも、脇に回れば腰高のフェンスを乗り越えるだけで簡単に侵入できるマンションもありますし、マンションの居住者がオートロック扉から出入りするタイミングを見計らって一緒に侵入することも可能です。
以前私が実家のオートロック付のマンションを訪問した際、たまたまオートロック扉のところで居住者の方と一緒になり、インターホンで家の者に解錠してもらうのも面倒なので、顔見知りではありませんでしたが「こんにちは」と挨拶をして、一緒に入れてもらいました。
本来であれば居住者の方も、顔見知りでなければ「適正な手続きを経てください」と言うべきところなのでしょうが、実際にはそのようなことは期待できません。
相手がサザエさんに出てくる泥棒のように頬被りをして、背中に唐草模様の大きな風呂敷でも担いでいれば「怪しい?」と思うかも知れませんが、マンションに忍び込もうとする不審者は普通、怪しい格好はしていないものです。
このようなことから、オートロック付きのマンションと言えどもプロの賊に対しては侵入を阻止するだけの効果は期待できず、せいぜい押し売りやビラ配り、溜り場を探している不良などに対する「けん制機能」程度の効果と思っておいた方がよいでしょう。
・不審者の居住者の区別がつきづらい
これはマンションにおける最大の弱点と言えるでしょう。
基本的にある程度の規模以上のマンションでは、全ての居住者が顔見知りということはまず無いと思います。(特別にコミュニケーションの良いマンション別ですが)
マンションの規模が大きくなればなお更です。
それに、マンションの居住者なら顔見知りであっても、その親や親戚、友人などが訪問することもあるでしょうから、マンションの敷地内に見知らぬ者がいたとしてもさして不審には思わないでしょう。
戸建住宅であれば自分の敷地内に見知らぬ者が侵入していれば、即座に「不審者」という判断が下せますが、マンションの共用部分に見知らぬ者がいるというだけではこのような判断が働きません。
よほど挙動不審でない限り、不審者を特定することは困難であり、まさにそこが犯罪者のねらい目になるのです。
・外部からの視線をさえぎるため、多くの死角が存在する。
マンションではプライバシーを確保するために、なるべく外部からの視線を遮断するような設備を設けます。
例えば道路に接する部分では街路樹を植えたり、外部廊下には目隠しを設置することもあります。
廊下は階下からスカートを穿く女性の下着が見えないように、腰から下はフェンスでななく、コンクリートやパネルなどで目隠しをすることが多く、不審者が廊下でしゃがみこめば外部からは発見しづらい環境にあります。
最近の流行で玄関のアルコープ仕様というのをご存知でしょうか?
通常、マンションの玄関が共用廊下に接して配置されていますが、これを廊下から数メートル窪ませたところに玄関を設置し、同じ階の住人から玄関を死角にするものです。
これもプライバシーに配慮した設備で、最近のマンションでは人気があります。
↑アルコープ仕様の玄関
しかしアルコープ使用の場合、窪みに不審者が身を潜めていても、共用廊下の両端からは不審者を確認することができません。
特に注意が必要なのは廊下の一番奥の部屋のアルコープです。通常、一番奥の部屋には、その部屋の住人か用事のある者しか行きません。
ということは、この部屋のアルコープに不審者が潜んでいると、他人からは極めて発見しづらい死角となってしまうということです。
このような場合、待ち伏せ強盗などの標的となる危険性が高まりますので、反射ミラーを設置するなどの防犯対策が効果的です。
要するにプライバシーを求めて目隠しなどをすればするほど、賊にとっては都合の良い環境を提供してしまうという皮肉な結果になってしまいます。
さて、次回は「集合住宅のどこがなぜ危ないか」について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
【宣伝コーナー】
身内の宣伝で誠に恐縮ですが、私の愚弟 薬丸 岳 がこの度、 「天使のナイフ」 という作品で作家デビューをいたしました。
少年法を扱ったミステリー小説であり、手前味噌ではありますが、なかなか読み応えのある作品に仕上がっていると思いますので、興味のある方は是非お買い求めいただければ幸いです。
(あらすじ)
生後五ヶ月の娘の目の前で惨殺された妻・祥子。夫・桧山貴志は耳を疑った。犯人は、十三歳の少年三人。四年後、犯人の少年の一人が殺され、桧山は疑惑の人となる。少年たちの事件後を追う桧山に付き付けられた、信じがたい真実、恐るべき過去――。
1680円(税込) で講談社より発売中
マンションの防犯対策(1)
最近の住宅に関する犯罪といえば、真っ先に「ピッキング」を思い浮かべる方が多いと思いますが、住宅犯罪の類型としては以下のような分類ができると思います。
①玄関や窓から室内に侵入をしての窃盗や傷害
②駐車場や駐輪場などの敷地内での盗難や破損(自転車泥棒、車上荒らしなど)
③外部侵入者による犯罪行為(痴漢、落書き、器物破損)
これらの住宅犯罪件数は10年前と比較すると明らかに増加傾向にあります。
同時に犯罪の内容も多様化、集団化、悪質化していて、住民のセキュリティーに対する関心も年々高まってきています。
福岡や世田谷の一家殺害事件などは記憶に新しいところですが、このような事件もひと昔まえであれば日本中を震撼させるような事件であったはずですが、現在では特別珍しい事件ではなくなっているという点で、「日本の治安も悪くなったものだ」ということを痛感いたします。
このような中、新築マンションの広告を見ていても、セキュリティーの高さを前面に打ち出しているものが目立ってきていますね。
ざっとあげても、
・防犯センサー付玄関扉
・玄関扉の二重ロック
・プログレッシブディンプルキー(防犯鍵)
・カメラ付きインターホン
などの各住戸のセキュリティーを高めるものから、
・オートドアロック
・防犯カメラ
・防犯灯
などの共用部分の防犯対策、
そして警備会社との提携による24時間管理システムなど、ハード・ソフト面まで多岐にわたっております。
さて、冒頭に書きましたように住宅犯罪で真っ先に思い浮かべる「ピッキング」のように玄関から室内に侵入する犯罪ですが、これは犯罪ジャンルにおいては「不法解錠行為」と言うそうですが、住宅犯罪の約50%を占めているそうです。
最近ではピッキング対策として防犯性の高い鍵に変える住民も珍しくありませんが、それに対応すべく賊側も新たな進入方法を考案し実行しています。
それが、
・バールによるこじ開け
・サムターン回し
・カム送り
と呼ばれる侵入方法です。
皆さんもこれらの用語は良く耳にすると思いますが、ちょっとここで用語の解説をしておきます。
まず、おなじみの「ピッキング」ですが、これは
合鍵以外の用具(ピッキング用具)を使用し、錠シシリンダー部分を操作して解錠する手口を言います。
こんな感じです。
次に「バールによるこじ開け」ですが、
これはドアの隙間にバールをねじ込んで、力まかせでドアを破壊するものです。
↑バールでこじ開けられたあとです。
かなり乱暴な手口で、外国人犯罪者に多く見られます。
次に「サムターン回し」ですが、
サムターンというのはドアの内側にある錠を開閉するつまみのことです。
通常はドリルなどを使って鍵の横に穴をあけて、
扉の外から先端が90度曲がる工具を突っ込みます。
そして、工具を約90度折り曲げてサムターンに引っ掛けて解錠します。
最後に「カム送り」ですが、
シリンダーカバー(下の写真の赤丸部分)を指でひっぱると、扉とカバーの間に少し隙間ができます。
その隙間から扉内部に特殊な工具を挿入して、錠ケースを直接操作して解錠する手口です。
別名「バイパス解錠」とも言われています。
これらの侵入方法については、次々と対策商品も出ています。
例えば「こじ開け」についてはガードプレートを付けたり、複数の予備錠をつけるという防衛手段がありますし、「サムターン回し」についてはサムターンに工具が引っかからないように、サムターンカバーを付ける方法があります。
しかし、賊側と防犯商品開発の攻防はいたちごっこの感もありますので、抜本的な解決にはいたっていません。
さて、次回はマンションに求められる防犯とはどのようなものか?
「マンションに潜む特有の危険」について考えてみたいと思います。
「管理」が危ない(4)
関東地方では猛暑が続いておりますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
さて、日経新聞の特集記事が延び延びとなってしまいましたが、今回が最終回です。
「ゴザを敷けば宴会ができるな」。
5月末、東京都江戸川区のなぎさニュータウンで歓声が響いた。
4、50代を中心とする住民が夢中で取り組んでいたのは、建物周辺の植え込みを池のある小庭園に変えるボランティア活動だった。
同団地は竣工から25年。大規模修繕の積立金が底をつく苦い経験も味わったが、今や自主管理型マンションとして全国のお手本だ。管理組合が主体的に運営する実態を見たいと、国土交通省も視察した。
転機は1988年、理事会を補佐する「事務局」の創設だった。生活上の悩み相談や日常出納業務といった本来、管理会社が行う作業を事務局が一手に引き受け、理事会を大規模修繕など重要案件の審議に専念させた。報酬は月1万円。原則休日なし、の働きだったが「団地内で濃密な人間関係をつくれたことが何よりの成果」と千田節子元事務局長(61歳)は笑う。
JR目黒駅近くにある築30年を超すマンションは清掃などを除き、管理会社を一切使わず自主管理を続けている。管理組合が5人の専従職員を雇い入れ、指南役となる「日本マンションテクノスクール」(横浜市、菅野安男理事長)から派遣された事務長の下で汗を流す。
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マンション管理と言ってもその作業は膨大。専門知識の無い住民だけで担うのには無理があるが、「財務処理」「保守点検」などのプロの技を個別に活用すれば、きめ細やかな管理が可能になる。
管理会社に任せきりにしなくなることで住民のマンション管理への参加意識も高まり、結果として要望が色濃く反映できるのが自主管理の利点だ。ただ、他社を「悪者」にできない分、理事らの責任は増す。
国交省の調査では、管理業者に委託しない組合の割合は1割ほどにとどまる。悪徳業者を見分けるマンション理事長ら幹部の眼力が「自己責任」として総会などで直接問われるため、尻込みするケースが少なくないと見られる。
「ただ、どこが悪徳業者かは、実際に被害を受けた管理組合の口コミ情報が頼り」と非営利組織「マンション管理支援協議会」(東京・中野)は指摘する。問題はその「口コミ」をいかにより広く集めるかだろう。
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ひとつの答えが千葉県浦安市にある。26もの管理組合が集まった浦安住宅管理組合連合会。その情報収集力は究極の域ともいえる。
「エレベーター保守管理 A社 1400万円」
「給水施設管理 B社 89万円」。
その業者がいくらで入札したのか重要情報が会報で実名で示される。市長との懇談会も定例化。約1万2千世帯を網羅する規模の力のなせるわざだ。
「いい加減な業者がいたら、2度と浦安で仕事ができなくなる」。
日本マンション学会の常務理事も努める舘幸嗣会長は胸を張る。
ただ、いくら成功した管理手法でも、別の物件で同じ効果を得られるか保証は無い。舘会長の基本方針は「各マンションの個別事情に口を挟まない」ことである。
行き着く先は、管理を含めたマンション住民の「責任ある自立」だろう。
物件の規模や年齢構成、管理への理念の違いを「個性」と尊重しあったうえで、情報を共有する輪をどう広げてゆくか。現状を打開しようとするマンション住民の知恵と工夫が問われている。
(新聞記事 以上)
一昔前、マンション管理業界では、マンション管理業というものは非常に『おいしい仕事』と言われていたそうです。何故おいしいのでしょうか?
ひとつは管理業務の受注について競争が少ないということ。
これは現在でもそうですが、マンションが分譲される時点ではすでに管理会社が決定していてます。
商売の常識からすると管理会社を決めるのは当然、マンションの居住者であるはずなのですが、ご存知のとおりマンションを購入する時点で管理会社はすでに決まっていて、購入者は結果的にはこれを追認せざるを得ない状況にあります。
これはデベロッパー(マンション販売会社)と施工会社、銀行、土地提供者などの事業者間でのバーターにより決まるもので、多くの場合はデペロッパー系列の管理会社が請負います。
今でこそ独立系の管理会社も増えてきて、リプレイスと言われる管理会社の途中変更なども行われるようになってきましたが、以前ではあまり考えられないことです。それだけに、一度管理業務を受託してしまえば安定的に売り上げが確保されるといったものでした。
また、以前は「マンションの管理などは管理会社に任せておけばよい」と言うか、そういったものだという観念があり、マンションの住民は比較的マンション管理に無関心でありました。
管理会社はマンションの管理予算を熟知していて、それでいて顧客であるマンションの住民は無関心なのですから、これはもう「赤子の手をひねる」ようなものです。
このようなことから、管理組合のお金を流用したり、不利な契約を結ぶといった悪質な管理会社も増えるるようになって、いろいろな問題が多発したため、マンション管理に関する法律が整備されることになりました。
現在では管理組合の危機意識も非常に強くなったことから、管理会社にとっては決して「おいしい仕事」とは言えなくなってきているものと思われます。
しかし、危機意識の向上も全てのマンションで言えるわけではありません。
世の中のマンションでは、まだ旧態依然とした管理意識のマンションも多いわけで、このようなマンションは悪質な管理会社の餌食になる可能性が非常に高いわけです。
新聞記事にもありますように、大切なことはマンション住民の「責任ある自立」に尽きると思います。
そのような意味からすると、このブログをご覧いただいている皆さんは、日頃からマンション管理に関する問題意識をお持ちだと思いますので、その意識を他の人に広げていくと言うことが大切なのではないでしょうか。
マンションの地震とエレベーター
先週末午後、首都圏で大きな地震がありました。
千葉県北西部を震源とするもので、最大震度は5だったそうですが、皆さんの中で被害に遭われた方はいらっしゃいませんでしたでしょうか。
この日私は、渋谷のデパートの6階にいたのですが、あっと思った瞬間に突き上げるような激しいたて揺れに襲われました。幸いにも商品の落下などはありませんでしたが、デパートのような陳列物の多い場所での地震は非常に怖いものだと実感しました。
この地震では最強震度情報が22分間も伝達されないという不手際があり、東京都の対応不備が大きな問題となっております。
さて、本題のエレベーターの話しです。
首都圏では約5万基のエレベーターが止まり、そのうち数十件では人が中に閉じ込められました。
三菱電機ビルテクノサービス、日立ビルシステム、東芝エレベーターのエレベーター保守大手3社だけで4万基を越えるエレベーターに障害が出ました模様です。
三菱電機ビルテクノは都内で保守契約を結ぶ4万4千基のうち約1万2千基が停止、利用者が閉じ込められた被害は10件に達しました。
日立ビルシステムも東京、神奈川、埼玉、千葉に茨城を加えた1都4県で7万基のうち2万1千基が停止し、閉じ込めは20件。
東芝エレベーターも1都3県で1万基が停止。
上記の3社だけでも4万3000基のエレベーターがストップです。
私がいたデパートでも地震の後は全てのエレベーターが停止しており、復旧の見通しはたっていないとのことでした。
「最近のエレベーターは地震があると、一番近い階で自動的に止まって扉がひらくから安全だ」ということを聞きますが、これは運転制御に地震計があるか無いかによるものです。
①地震計の無いタイプ
人が乗るかごの部分が側壁などに接触した場合、即座に停止するため、利用者が閉じ込められる危険性が高い。
②地震計のあるタイプ
震度4以上の揺れを検知した時点で最も近い階に停止する仕組み。
※ただし、地震計付きは安全性は高まるものの、側壁や吊り上げ部などが損傷していなかを現場作業員の立会で点検するため復旧までに時間がかかります。
ひとたび大きな地震がおこると、何万基というエレベーターに障害が起こります。そしてその復旧にはエレベーター保守作業員の点検が必要となるわけですから、膨大な作業となります。
しかし、前述のとおりエレベーターの保守会社はメーカー系が大きなシェアを占めていますから、このような大規模な被害がでてしまうと保守作業員の人数が足りなくなり、復旧に時間がかかるという結果になります。
今回の地震発生は週末だったので、オフィスビルへの影響少なかったと思うのですが、これが平日の日中だったら復旧はもっと混乱したことでしょう。
保守各社では当日の想定を超える被害に現場が混乱したことから、保守・復旧体制を見直す動きが出ています。ただ、今の状態で復旧体制を高めるということは、保守作業員を増員するしか手がなく、そうなるとエレベーターの保守費用の値上げにつながることから、遠隔監視の技術高度化等により新たな対応策を模索していく考えのようです。
マンションでも5~6階程度の住民であれば階段をつかった生活も可能でしょうが、高層マンションであったり、低層階でもお年寄りや体の不自由な方にとってはエレベーターの停止は大変な問題です。
今日発売の『週刊文春』にも関連記事が掲載されていました。
ある高層マンションの40階に住む主婦は、地震の前に近所のスーパーに買い物に行き、特売日であったため牛乳パック4本と卵のほか、夕食の食材をたんまりと買い込み、マンションに帰る途中で地震にあってしまい、エレベーターが止まっていたため多くの荷物を抱えながら、40階まで30分以上かけて登ったというものです。
皆さん、自身ありますか?ほとんど登山の世界ですよね。
「天災は忘れたころにやってくる」
この機会に皆さんのマンションでもエレベーターに関する事項を再点検されてはいかがでしょうか。
「管理」が危ない(3)
少し間が空きましたが、日本経済新聞での特集記事の続きをご紹介します。
マンション誰のもの-「管理」が危ない
(以下日経新聞より)
管理会社とうまくつきあう方法がある。「性悪説」に立つことだ。
千葉県市川市にある「サニーハウス行徳」(160戸)。
築30年を超す同マンションで昨年5月、管理会社の不透明な経理処理が発覚した。
管理組合の決算と管理費の通帳残高が一致しなかったのだ。
マンションの住人が見つけたわけではない。管理会社に不審を抱いた当時の理事長がマンション管理士の重松秀士さん(54歳)に2年分の資金の出入りについて監査を依頼して判明した。
玄関ガラスの破損など、本来なら損害保険から保険金が下りるはずの修理代が、管理費から全額支払われていることもわかった。
5月。このマンションの管理組合は管理会社を変更した。
今度は大手の会社だが、重松さんは顧問管理士として四半期決算など様々な書類をチェックするお目付け役を今も続けている。
管理組合理事長の乙坂記良さん(70歳)自身も月次報告などに必ず目を通す。
「管理会社任せで一度失敗したのだから、これからは丸投げだけはできない」。
幾重にも監視する体制を整えることがトラブルを未然に防ぐ。
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管理会社が万一、破綻した場合でも被害を抑える方法もある。
横浜市港南区の「Fハウス」(仮称、約200戸)は昨夏から管理会社への支払いを「後払い」に変更した。
業界では月末に翌月分を振り込む「先払い」が普通だが、当月分をその月末に払う方式にすれば、管理会社が倒産しても青ざめなくてすむ。
実はFハウスの管理組合が管理会社のサービスや財務内容を他社と比べてみたら、業績不振の親会社から買い取った資産の下落で自己資本比率が低いことが判明した。
すぐに四半期ごとの業績報告を求め、支払い方法の変更を要求したのだ。
Fハウスはその管理会社にとって看板物件だったため、渋々受け入れたのが実態だ。
業界動向に詳しいマンション管理士の川原一守さん(30歳)は「一般の商取引なら後払いは珍しくないが、この業界では管理業者に有利な慣行が続いている」と打ち明
ける。
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工夫すれば、管理会社とのトラブルはある程度なくすことができる。しかし、マンションで最も厄介なのが住民自身の不正だ。
「おたくのマンションではひどい談合が行われているらしいよ」
東京・江東区のあるマンションで暮らす伊藤重光さん(仮名、61歳)は知人からこう耳打ちされて驚いた。
このマンションは現在、約5億円をかけて大規模修繕の工事中だ。
建設関係の仕事をしている伊藤さんは、他の住民と相談して別の業者に見積もりを頼んだところ、ほぼ半額で済むことがわかった。
発注までの経緯を調べると、複数の会社に見積もりを求めていたが、落札したのは最も金額が安い業者ではなかった。
管理組合の中に設置された修繕委員会の中心メンバーの住民と懇意と噂されている業者が選ばれていたのだ。
談合ではなく、癒着。
伊藤さんが「気付くのが遅かった」と悔しがるが、こうした事例は珍しくない。
マンション運営に住民が無関心なところほど、「内なるリスク」は膨らむ。
リスクを乗り越えることができるのは、住民自身でしかない。
今では少なくなったと思いますが、ひと昔まえではマンションの管理組合というと、なんとなく町内会などの自治会活動と同じようなものといったイメージが強かったように思います。
逆に言えば、マンション管理組合の理事になった方の中にも、自治会活動の延長線といったイメージで活動をしていた人も多かったのではないでしょうか?
マンションの管理組合と自治会は色々な面でまったく異なる要素の団体なのですが、その中でも扱うお金の額は桁違いです。
自治会費は1世帯あたり年間で数千円です。500世帯の自治会で年間3千円の自治会費としても、年間総額はたった150万円です。
しかし、マンションでは管理費と修繕積立金の年間合計額は規模にもよりますが、軽く年間数千万円規模となります。
また、修繕積立金が積みあがっている組合であれば、億単位お金の管理が必要となります。
数億円の資産(修繕積立金)を持ち、年間数千万円のお金が動くということを会社に当てはめると、そこそこの規模になるのでははないでしょうか?
それを素人集団である管理組合が行うのですから、大変なのは当然です。
多額のお金が動くということは、色々なリスクも生じます。
特集記事でもあった管理会社の不正や倒産、住民による談合等のリスク。
また管理組合理事による着服なども良く聞く話しです。
企業であれば決済ルールの明確化や組織間のけん制機能、内部監査などによって不正防止を行いますが、マンションでは住民の信頼関係をベースにしていることから、あまり露骨なチェック機能を設けることには抵抗があると思います。
しかし、マンションという共有資産の維持管理や扱う金銭の大きさを考えるとあまり悠長なことも言っていられません。
記事の冒頭でも「性悪説」にたつことが重要とありましたが、人間だれでも人を疑うことは気持ちの良いものではありません。
できれば「性善説」で考えたいところです。
武田鉄也さん歌、『贈る言葉』の一節で
♪~信じられぬと 嘆くよりも
人を信じて 傷つくほうがいい~
と言う歌詞がありますが、マンション管理ではそうは行きません。
人を信じて傷つくだけで済むのは自分の財産だけです。
では、この性悪説にたつということはどういうことでしょうか?
「人はもともと悪いことをするものだ」と思って対応することですが、日頃から
「あの人はちょっと信用できない」とか
「管理会社の担当者はどうも怪しい」などと疑いの目を向けたところで、これでは単に疑心暗鬼になるだけです。
重要なのは信頼はしているが万が一のためにチェックのためのルールを設けるということです。
例えば一番初歩的な事例では修繕積立金の通帳は理事長が保管し、印鑑は会計担当理事が保管するというルール。
両者が共同しなければお金が引き出せない仕組みにします。
また、工事の見積もりは「最低3社からの相見積をうけること」というルールを決めることで簡単に談合が行われないようにします。
また、定期的に外部機関に管理組合の事務について監査を受けるというルールも有効です。
人間は魔が差す生き物です。普段はそのような気が無くても、つい出来心というものが生じます。
例えば野菜の無人販売所で100円のキュウリを買おうと思って財布を見たら50円玉しか無かった。「今度50円多めに払えばいいか」と思うことは良くあることではないでしょうか?
これが無人販売所ではなく自動販売機なら魔が差す余地はありません。お金が足りなければ買うことが不可能ですから。
色々なルールを作るとつい「面倒だから」とか「大丈夫だろう」といったことで手続きを省略してしまうことがありますが、必ずルールは守るということを常に意識することがリスクを回避する上で最も重要な要素です。
マンション管理について色々な仕組みを考えることで、相当なリスクが回避できると思いますので、皆さんのマンションでも知恵を絞ってみてください。
マンション管理「格付け」
今年3月にこのブログでマンション管理の「格付け」について記事にしました。(興味のある方はブログテーマの「マンションの格付け」からご覧ください)
このマンション管理の格付けというのは判断材料の乏しいマンションの管理状態について、評価基準を設定することにより、中古マンションを購入する際の判断を容易にしようとするもので、国土交通省が検討を進めているものです。
今日の日本経済新聞の一面で、進捗状況についての記事が掲載されましたのでご紹介します。
(以下、本日の新聞記事)
マンション管理「格付け」
国交省 評価基準年内に中古購入、判断容易に
国土交通省はマンション管理に関する評価基準を年内に作成する。
管理の内容や将来の修繕に必要な積立金などについて居住者や購入者が判断する材料を提供するのが狙い。
マンション管理組合から情報を集め、公表する制度も来年から始める。
マンション管理に実質的な「格付け」を導入する試みで、中古マンションの売買が円滑に進むよう側面支援する。
マンションの管理状況は外部から実態が見えにくく、他との比較も難しい。
評価の基準が明確になり、情報公開が進めば、中古マンションの売買の重要な要素である管理状況を一般個人も判断しやすくなる。
管理の評価基準は国土交通省がガイドラインの形で公表する。
築年数や建築様式ごとの修繕積立金の標準額、管理規約に盛り込むべき内容、管理組合の活動などについて
「望ましい水準」
「標準的な水準」
「基準を満たす最低水準」
の三段階に分けて評価基準を示す。
例えば修繕積立金の場合、
必要分の100%超を望ましい水準、
80~100%を標準、
60~80%を最低水準とする。
管理費は個別性が高いため、一律の基準をつくりにくい。そこで、管理コスト別のサービス内容を例示するなどして、割高な管理費には下げ圧力が働くような工夫も採り入れているという。
個別のマンションの管理状況を各管理組合に報告してもらい国土交通省の外郭団体の「マンション管理センター」がデータベース化、インターネットで公表する仕組みも導入。
10月から登録を受けつけ、来年から公表する。
登録は任意だが、管理状況が良好なマンションは価値向上も期待できるとみて、所有者が情報公開に前向きになる可能性がある。一方で情報を公開しないと「管理状況が悪い」とみなされることも考えられる。
マンションの管理状態は分かりにくいものです。マンションの居住者ですら分かりづらいのですから、中古マンションを購入しようとする者からすると尚更です。
もし、中古マンションを購入してからそのマンションの修繕積立金が基準より大幅に少ないことが分かった場合、大きな含み損のある物件を購入してしまったことになります。
今まで中古マンションの価格は、立地、築年数、建物グレードから近隣の取引事例などを参考に決められておりました。
ですから近隣のマンションで条件が同程度であれば、中古価格も同程度になることが多かったのです。
しかし、この価格基準にはマンションの管理状態というものがあまり反映されておりませんでしたので、これからはその他の条件が同程度であっても管理状態によっては大きな価格差が生ずる可能性があります。
企業が他の事業や不動産を買収する際はデューデリジェンスと言われる資産の適正評価を行います。
これは資産や買収対象企業の価値,収益力,リスクなどを詳細に調査し評価することで、特に不動産の場合は物件内容,法的関係,地盤や土壌汚染などを精査し,実際の市場価格を査定する手続きです。
これからは中古マンション市場でもデューデリジェンスのような資産評価というものが求められていく事と思われます。そして、マンションという資産の価値を劣化させないためも更なるマンション管理への取り組みが求められてきます。