耐震性の確認方法(5)
とりあえず、『耐震性の確認方法』の最終回です。
前回は↓の①の確認方法についてのお話しでした。
①構造計算、建築確認、施工を行った者を確認する。
②不安があるので構造計算書の再計算をしておきたい。
③徹底的に安全性を確認するために耐震診断を行いたい。
まず、②の構造計算書の再計算ですが、当たり前のことですがお手元に『構造計算書』という分厚い書類があることが大前提です。
次に、建築確認の時期が昭和56年6月以降のマンションであれば構造計算書の再計算ができます。なぜ、昭和56年6月以前だと駄目かというと、この年に「新耐震基準」が新たに定めたれたため、古い建物の構造計算書をいくらチェックしても、現在の耐震基準を異なるので、もし耐震性をチェックするためには『耐震診断』が必要となります。
さて、構造計算書の再計算の費用ですが、当然マンションの規模や構造によって異なりますが、一般的に平均40万円~50万円とのことです。
マンションの販売会社によっては、独自に無償で行っている場合もあるので、問い合わせをしてみてください。また、県や市によっては稀に助成制度がありますから、確認してみてはいかがでしょうか。なお、費用をかけてやる場合は、総会の決議が必要でしょう。
最後に耐震診断です。
これだけ騒がれている問題だから、いっそのこと耐震診断をしてすっきりしたい!という組合さんもあるでしょう。
しかし、マンションの形状や構造、診断方法によっても異なりますが、耐震診断の費用は延べ床面積1㎡あたり500円から2000円といわれていますので、100戸程度のマンションでは400万円から1600万円程度になろうかと思います。
もし実施するなら当然総会決議が必要です。
しかし、耐震性に問題がなかった場合は、安心料としてこれだけの費用の支出となってしまうので、頭の痛いところです。100戸のマンションだと1世帯あたり4万円から16万円の出費ですから痛いですよね。
当面は様子を見ようという組合さんが圧倒的に多いと思いますが、もしマンションに多くのクラックやたわみがあって非常に気になる場合は、専門家に相談されてみてはいかがでしょうか。
耐震性の確認方法(4)
耐震性の確認といっても、いったいどの程度まで確認するかという問題があります。
徹底的に確認をしようとすれば、それだけ費用がかかるのでマンションにとっては悩ましい問題です。
どのレベルまで確認をするか?という事を整理すると、
①構造計算、建築確認、施工を行った者を確認する。
②不安があるので構造計算書の再計算をしておく。
③徹底的に安全性を確認するために耐震診断を行う。
といったところでしょうか。
①については、比較的新しいマンションなら分譲時のパンフレットや設計図書なども保管されていることが多いのであまり問題ないかと思いますが、かなり古いマンションになると確認に一苦労かもしれません。
分譲業者が分からないということはほとんど無いと思います。
もし、分からない方は売買契約書を確認してみてください。
そして、分譲業者に問い合わせれば施工業者がわかるはずです。
次に構造計算を行った者の確認ですが、
基本的には設計を担当した者に確認すれば良いのですが、よく分からなければ分業業者に直接確認してみましょう。
マンションの設計会社が分かっていても、構造計算は他の設計事務所(姉歯のように)に外注していることが多いので、その辺りも含めて確認すると良いでしょう。
次に、建築確認を行った者の確認ですが、竣工図書の「建築確認申請書副本」や「検査済証」といった書類を確認すればわかるのですが、前回の記事のとおり建築確認が平成11年4月以前であれば全て特定行政庁(都道府県か市町村)です。
ただし、特定行政庁だからといって全く安心というわけではありませんが・・・・・。
もし、ここまでの作業が難しいとお感じなら、管理業者やマンション管理士などに相談してみてください。
②と③については次回お話しします。
では。
耐震性の確認方法(3)
さて、『民間建築確認機関の出資者を制限させなかったこと』とはどういうことか。
マンションの開発業者にとってはせっかく確認検査機関を民営化しても、独立行政法人のような中立な組織では自分たちの思うように確認許可を早くおろしたりすることができませんから、株式会社として民間企業が自由に出資できるようにする必要がありました。
例えば、今問題になっている㈱ERIの株主は
ミサワホーム、大和ハウス、パナホーム、三井ホーム、積水化学
などの住宅関連企業です。
その他に大手ゼネコンが出資している民間確認検査機関もあります。
まあ、不正をするという目的で出資しているわけではないと思いますが、少なくとも出資している会社は「建築確認が早く降りる」というメリットを目的にしていることは、間違いないと思います。
一方、民間の検査確認機関としては民間の厳しい競争がありますから、検査スピードを他の検査機関と競わざるを得ないという宿命を背負っています。
前回も説明したように、開発業者は多少検査費用がかさんだとしても、建築確認が早く降りた方がメリットがあるので、検査スピードの要求が益々強くなります。
実際にERIでは特急料金というのはあって、検査費用を多く払えば早く確認を降ろしてくれるというサービスがあったようです。まるでクリーニング屋のようですね。
今回の事件はマンションの鉄筋量を減らして材料費を浮かせて儲けを増やそうとした業者と、顧客である建設会社やマンション業者から早く確認許可を降ろせ!というニーズに応えざるを得なかった確認検査機関のずさんな検査が生んだ犯罪といえます。
本来なら建設会社がしっかりと法律を守って施工を行えば全く問題がないもですが、それを更に第三者がチェックする仕組みとなり、でもその第三機関がチェック機能を果たしていない。
これは会社でもいえることで、近いところではカネボウの粉飾決算を監査法人がチェックできなかったということが大問題になりましたし、昨日のニュースではライブドアの問題でも会計監査人に圧力がかかったという報道もありました。
規制が厳しくなれば、それに応じて法の目をかいくぐろうとする者が出てくるのは世の常ですが、しっかりとした法整備を期待したいものです。
さて、建築確認の仕組みや民間検査確認機関についてお話ししてきましたが、では実際に自分のマンションをどのような手順で確認すれば良いのでしょうか?
また、問題が発見されたとき、どのような対処法があるのでしょうか。
次回はそのあたりを説明して行きます。
耐震性の確認方法(2)
建築確認の民間委託は運転免許を教習所が発行できるくらいおかしな制度だという話しを前回しました。
コメントでもご意見をいただきましたが、役所だからといって安心というわけではありませんが、それ以前の問題で、民間委託はそもその仕組み自体がおかしいということです。
では、なぜこのようなおかしな制度がまかり通るのでしょうか?
平成11年5月以前の建築確認事務は『建築主事』という特定の資格を与えられた人、すなわち役人が行っていて、建築主事は主に都道府県に設置されているのですが、比較的大きな市町村では市町村にも建築主事が設置されています。ちなみに建築主事を設置している自治体のことを『特定行政庁』と呼びます。
そして平成11年5月以降は建築基準法の改正で、いままで役所でしかできなかった建築確認事務を民間に委託できるようになりました。これには色々な裏地事情があるようですが、きっかけは平成7年に発生した阪神淡路大震災です。
この震災では多くのビルや建物が倒壊したことから、政府は
『建築物の安全性の一層の確保と合理的利用の推進』という目標を立てました。
要するに大震災で多くのビルやマンションが倒壊したことを反省して、建築基準法を強化しようとするものでした。
ところが、これで一番困るのはマンション開発業者や建設業者です。
なぜ困るかというと、建築基準法を強化するということは、建築確認等の審査が今まで以上に厳しくなるということで、そうなると今まで1ヶ月半ほどもかかっていた審査期間がもっと延びてしまうからです。
期間が延びるとなぜ困るかというと、マンション開発業者はマンションを分譲するために多額の資金を必要とし、その資金の大半は銀行からの借り入れでまかなっています。
建築確認に時間がかかり、分譲までに時間がかかるということは、マンション開発業者としては金利負担が増えて利益が減少するということになるのです。
一般にマンション開発費の内訳は
用地の取得費 (20%~30%)
建設費 (40%~50%)
経費(宣伝費、金利)(10%程度)
利 益 (20%程度)
と言われています。
マンション用地の取得には何億円ものお金がかかりますが、マンションの購入者から代金を受領できるのは、一部を手付金でもらる他はマンション引渡しの時点です。
それまでの間、多額の開発費用をマンション開発業者は立て替えなけでばならないので、確認申請に時間がかかり、引渡し時期が延びると開発業者の金利負担が大きくなり、死活問題となります。
そこで、マンション開発業界や建設業界は建築確認をスムーズに受けられるように民営化を陳情したのです。
もう一つ重要なのことに、『民間建築確認機関の出資者を制限させなかったこと』というのがあるのですが、これは次回お話しします。
耐震性の確認方法(1)
昨日の証人喚問で久しぶりに小嶋社長を見ましたが、眼鏡をかけて髪も前髪が垂れ下がって、以前の「悪人顔」から山崎努を彷彿とさせる渋い雰囲気になってました。
これは心から反省しての結果か、情状酌量を誘う作戦か?
でも、重要な部分についてはほとんど証言拒否でしたから、まああまり反省しているようには見えませんでしたけど・・・・・・。
さて、皆さんのマンションも
姉歯物件ではなかったが、それで安心なのか?
と不安に感じているのではないでしょうか?
ヒューザーや木村建設や姉歯とは関係ないが、建築確認が民間確認検査機関だったり、躯体のヒビが多くて構造に不安があるという方は多いと思います。
今回の問題は『民間確認検査機関』という存在が大きな問題となっているわけですが、今日はその辺りの話しをします。
まず、建物を建設するには、建設しようとする建物が建築基準法やその他の法令に適合していて安全かどうかをチェックするために『建築確認』をうけなければならないということになっています。
これは、悪徳業者がいい加減な建物を建てると住んでいる人はもとより、周りの人にも危険が及ぶために厳しくチェックをしようという目的です。
手順としては、
建築確認申請⇒建築確認取得⇒工事着工⇒中間検査⇒完了検査⇒検査済証取得
で、もし建築確認を取らずに建築を行えば、その建物は違法建築ということになります。
ところで、建築の許可は誰が行うかというと、平成11年4月以前は全て役所が行っていたが、それ以降は民間を行えるようになりました。
こんな大切な許可を民間に任せて大丈夫か?
と思うのが普通の人の感覚でしょう。
例えば自動車の運転免許を考えてみてください。
免許を取ろうと思ったら、各地の運転免許センターという警察本部の組織で試験を受けて合格しなければなりません。
「私は民間の教習所で免許を取った」という人がいるかもしれませんが、教習所でも検定の時は公安委員会から検定員が来て試験を行うのであって、決して教習所の教官が検定を行うわけではありません。
もし、教習所が自分たちで勝手に免許を交付できるとするとどうでしょう。
教習所も競争が厳しいですから、他の教習所より厳しくすると生徒は集まらないかもしれません。
どうしても急いで免許を取りたい人には、追加料金を払えば1週間で免許を出すといったサービスを考えるかもしれません。
今回の建築確認事務の民営化は、この教習所の話しと同じような矛盾のある仕組みだということです。
は原則として自動車運転試験場という『官庁』で運転試験をうけて免許が交付されます。民間の教習所で免許をとる場合も、検定試験には公安委員会から警察職員が来て行うので、民間の教習所が合否を判断するわけではありません。
建築確認を民間に行わせるということは、運転免許の試験を民間の教習所に任せることと同じですね。
私のブログは記事が長いというご意見をいただいたことがあるので、今年はちょっと短めで更新頻度を高くしていきたいと思いますので、今日はこの辺で。
次回はこの続きです。
阪神大震災から11年
6,434人が犠牲となった阪神大震災から今日で丸11年です。
私の両親も当時、神戸の東灘区という一番犠牲者の多かった地区に住んでいて、マンション管理士になったきっかけの一つが阪神大震災だったという話しは、ブログの記事にも書いたことがありますし、プロフィールにも記載してますので、ご存知の方も多いのではと思います。
11年前の当日の記憶はまだ鮮明に残っていて、朝の7時前に関西に住んでいる親戚から電話があり、
「今、神戸で大地震があって、ビルが倒れたりして大騒ぎになってる」と伝えてきました。
慌ててTVをつけましたがNHKでは、その時点で震度3程度となっていて、「まあ、たまたま古い建物が倒壊したんだろう」と思い込んでいたところ、だんだんと大騒ぎになって、慌てて両親に電話をしても全く電話がつながらず、安否不明となっていました。
私も両親の身を案じ、震災翌日に現地に赴きましたが、目の当たりにした街の光景はあまりに現実離れしていて、逆にリアリティの無いものとして記憶に残っています。
あれから11年・・・・。
大切な家族を失った人の悲しみは察するに余りありますが、震災で自宅を失った人の苦悩も相当なものだと思います。
以前、ドキュメンタリー番組で、震災でマンションが倒壊してローンの支払いだけが残り、大変苦労をされている方の特集がありましたが、家を新築しようにもダブルローンを背負うことになり、将来の生活の目途が立たないという内容でした。
特にマンションの場合はハードルが高くなります。
一戸建住宅であれば建物が倒壊しても土地が残りますから、自分の判断で仮設の住まいを建てることも可能ですが、マンションが損壊すると解体や建替えにも決議が必要ですし、実際阪神大震災では居住者が離散してしまい連絡がとれず、相談すらできないといった状況だったようです。
あれから11年・・・・・。
地震に遭わなくても、耐震偽装という人間の仕業によって住まいを奪われた人がいます。
これは本当に許せないことだと思いますし、偽装に係わった人には阪神大震災の教訓が全く生かされなかったということで、日本人は「人間らしさ」とか「人の心」といったものをいったい何処に忘れてきてしまったのだろうかと思う、今日この頃です。
震災でお亡くなりになった方のご冥福を心よりお祈りします。
住宅性能評価で二重の見逃し!
新年明けましておめでとうございます。
今年も一年、よろしくお付き合いのほど、お願い申し上げます。
さて皆さんはお正月はどのように過ごされたでしょうか?
帰省や旅行された方も多いと思いますが、長いお休みで家を空けた後、ついつい思うのが
やっぱり、家が一番
ではないでしょうか?
住まいに安らぎを求めることはとても重要なことですね。
住まいというのは『衣食住』という生活の三大要素の中の一つですし、もし住まいの平穏が妨げられたら生活全体にも大きな影響を及ぼしかねませんね。
しかし、住まいに平穏を求めるというささやかな要求ですら、耐震偽造問題等で脅かされる時代です。
我々も多くの情報の中から、「何が正しくて重要な情報か?」ということを十分に見極めていかなければなりません。
そんな中、先日の日経新聞の夕刊に
建築確認と性能評価 同一機関で審査
”二重の見逃し”募る不安
「購入、何を信じれば・・・・」
という記事がありました。
これは、偽造された構造計算書で建築確認を受けたマンションに、耐震性などを客観的にチェックする
「住宅性能評価書」が交付され「二重の見逃し」が発覚したというものです。
「建築確認と住宅性能評価の違いは?」
建築確認はこれから新築する建物が建築基準法やその他の法令に適合しているかどうかを審査するのに対し、住宅性能評価というのは住宅の購入者に客観的な判断基準を提示するために、耐震性や高齢者対応などについて等級評価をするものです。
ですから、住宅性能評価は受けようが受けまいが建築主の自由ですが、建築確認を受けずに建物を建てると違法建築ということになります。
「住宅性能評価を受けるメリットは?」
簡単に言えばダイヤモンドの鑑定書と同じようなものです。
例えば車を購入する際、カタログには馬力やトルク、燃費といった基本性能が数値化されているので、他社の車と比較することができます。
しかし、住宅の場合メーカーが「高耐震」とか「バリヤフリー」とか「高断熱」とか「環境対応」などといっても比較するものがないので、どの程度優れているかわかりません。
そこで、これら9分野28項目を等級評価して客観的な判断基準にしようとしたものです。
今回の問題は同一の検査機関が建築確認と性能評価を兼務していたため、耐震偽装があった建物なのに住宅性能評価でも耐震適正の評価を受けていたというものです。
最近では食品でも産地偽装が多いようですし、いったい何を信じたらよいのか?というところです。
今年のニュース
テレビではどこの局でも年末恒例の「今年の重大ニュース」的な番組を放送していますが、マンションに関係するニュースで私があげるとすると3つあります。
一つは地震
今年の3月に起きた福岡県西方沖地震。また、7月には関東地方でも震度5の地震がありました。
日本は地震列島といわれ、よく「豆腐の上に建物を建てているのと同じ」などといわれますが、本当に怖いですね。
しかし、地震で建物に被害が出た場合、マンションは大変です。
一戸建てであれば修理しようが、しばらく仮住まいして落ち着いてから直そうが自分の勝手にできますが、マンションは多数決で決めていかなければなりませんからね。
ただでさえ地震で家の中が大騒ぎのときに、マンションの役員はマンションの復旧対応に追われるのだから、大変な労力です。
マンションにはこのように「合意形成が必要」という宿命があるのですから、日頃から災害時のシュミレーションをしておいたほうが良いでしょうね。
二つ目は次に福知山線脱線事故によるマンションの損壊
あまりの大惨事だったのでブログではとりあげませんでしたが、マンションに電車が突っ込み、100名以上の人が亡くなるという前代未聞の災害でした。
電車の乗客も被害者なら、マンションの住民も被害者です。
同じ被害者ではありますが、片方ではあれだけの死者が出ているので、マンションの管理組合としては相当対応に苦慮したのではないでしょうか。
その後、あのマンションはどうなったのでしょうか?
最後は何といっても耐震偽装問題
日本は地震列島だと誰もが知っているのにこの問題。
以前、韓国かどこかで違法建築のデパートが倒壊するという事件があり、「こんなでたらめな建物を建てるなんて、ひどい国だな」などと思ってましたが、わが国もそうであったとは・・・・・。
バブル崩壊以降、「勝ち組」「負け組」などの言葉がはやり、あたかも短期間で莫大な利益を得る者が勝者であるかのような評価をされがちですが、この中には「社会や人に奉仕する」という根幹部分が抜けているように思います。
事業を起こす動機には必ず「社会のために」というものがあるはずで、それが無いものは単なる「金儲け」です。会社は社会奉仕を通じて利益を受けるものです。だから、マンション業者であれば「安全で快適な住環境の提供」が事業の動機であり、これが損なわれるようではそもそも事業を行う価値が無いということです。
中には急成長しなくても地道で堅実な経営を行っているマンション業者もいるわけで、消費者みずから企業を峻別する厳しい目を養うことが求められているのではないでしょうか。
さて、
特にコンピューターに詳しいわけでもなく、HPを立ち上げた経験も無い私が何とか手探りで作り始めたブログですが、2月に立ち上げて以来85本の記事を書くことができました。
立ち上げ当初から比べると更新頻度が落ちてきているものの、この一年間続けることができたのはひとえに、いつもブログを読んでくださる皆さんのおかげであります。
正直申し上げて、途中で何度か挫折しそうになったことがありますが、そのような時に読者の方から励ましのコメントをいただき、ここまで続けることができました。
来年も有益な情報を提供できるように勉強をしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは皆さん、良いお年を。
『地域のなかで』4
日本経済新聞首都圏版の特集記事、「マンション誰のもの 第4部-地域のなかで」を紹介しています。全4回のうち今日は最終回をご紹介します
(以下新聞記事)
山梨県山中湖村にある5棟構成のリゾートマンション「ビラフォーレ山中湖」。
10月29日、ここで大規模修繕工事の完成式典が開かれた。
関係者が集まったのは、ゴミ置き場を改造して作った丸い屋根の交流スペース「コヤ・コヤ」だ。
ここまでたどり着くのは簡単ではなかった。
修繕には5千万円を超す費用が必要だが、積立金が足りない。
所有者に負担を求めようにも、そもそも管理組合はなく、話し合う場がない。
◇◇--------------------------------◇◇
「売れるなら売りたいぐらい」
「購入したのは父親。私は関係ない」
昨年9月、ようやく管理組合ができたが、理事長の西堀雅夫さん(59)が工事を提案したとたん、所有者から異論が相次いだ。
築30年を超す同マンションは分譲当時こそにぎわったが、利用者は減る一方。
老朽化が進む中、約90人の所有者の中には全く利用しなくなった人もいて、財政負担を伴う工事への抵抗感は強かった。
「このままでは悪循環が続くだけ。まずは一緒に建物の価値を高めよう」。
西堀さんは所有者を説得すると同時にコヤ・コヤを整備し、交流会を開いた。
疎遠だった所有者が意見を言い合うようになれば。合意づくりに役立つと考えたわけだ。
努力が実を結び、工事を終えた今、西堀さんらは周辺のリゾートマンションと「マンション・ユニオン」を設立することも計画している。
管理のノウハウを共有し、プールやテニスコートなどの附帯施設を相互開放する構想。
施設は地元住民にも開放し、村の観光農業特区計画にも協力する。
「地域全体が活性化することが、自分たちの楽しみを増やすことにもなる」。
西堀さんらはそう考えている。
1980年代後半のブームに乗り、各地にリゾートマンションが建てられた。
利用者が少ないと管理がおざなりになりがちで、古ぼけた建物も増え始めている。
ビラフォーレのように所有者が手を携え地域との共生を目指す動きもあるが、放置されスラム化する危険性もつきまとう。地域にとっては大きな問題だ。
◇◇--------------------------------◇◇
海の見える傾斜地に高齢者向けマンションを建てるという県内の業者の計画に地域住民が反発、撤回を求めて立てたものだ。
町は、マンションの高さがまちづくり条例の規定を超えていることを根拠に計画の見直しを要請したが、業者は受け入れず、昨年12月に県から建築確認を取得。
今年3月に業者が町に給水を申請すると、町は条例に基づく協議に応じないことを理由に受理を拒んだ。双方は今もにらみある。
真鶴町にはリゾートブームのころに開発計画が殺到した。
「このままでは町が壊される」と、94年に「美の条例」と呼ばれるまちづくり条例を制定。
美観を守るために高さや規模のほか、材料からデザインに至るまで様々な基準を定めた。
業者側は「条例は法律違反」を主張するが、住民団体「まちづくり条例を守る会」の錦織潔さん(79)は、
「景観はもちろん、予定地は防災面でも問題がある。建てるのは勝手、では済まされない」と憤る。
マンションは周辺に及ぼす影響が大きい。
住宅地でもリゾート地でも、一定の公共性、つまり周辺環境への配慮は地域社会に溶け込む努力が求められる。建てる側、所有する側にその意識が根付かない限り、マンション建設に異を唱える声が消えることはない。
今回は「マンションが地域に与える影響」についての特集記事です。
マンションは地域にとって大きな影響を与える存在であることは間違いないでしょう。
マンションは一戸建住宅に比べて非常に大きな構造物なので、近隣に与える影響も非常に大きなものとなります。特に周辺に戸建住宅が多い中でマンション建設を行うと、かなりの確立でこのような問題が発生します。
12月20日の新聞に国立市のマンションの高さについて争っていた裁判の控訴審で、市に2500万円の賠償金を命じる判決が出たとの記事がありました。
簡単に事件の概要を説明しますと、東京の国立市で高さ44メートルのマンションを建設した明和地所が、「工事着工後に高さ20メートルに制限する条例を制定するなど妨害された」として、国立市と同市長を相手に損害賠償を求めた訴訟です。
第一審は同市に4億円の賠償を認めましたが、控訴審(第二審)では市の賠償額を2500万円に減額した判決となりました。
裁判長は「市長が市議会で違反建築物と答弁したり、東京都などに水道を供給しないように働きかけたことは、行政の中立性を逸脱し、異例かつ執拗(しつよう)」と指摘しています。
賠償額の減額理由は「条例による価値減損は受忍すべき」とか「明和地所の強引な営業方針も信用下落につながった」としていますが、かなり根の深い問題です。
おそらく近隣住民と市が一体となってマンション業者と戦ったわけですが、あとから高さ制限の条例を制定するというやり方は如何なものでしょうか?
もう一つの大きな影響として人口問題があります。
マンションは限られた敷地の上空を有効利用することで多くの人が住めるようにするものですから、一戸建てであればせいぜい20世帯ほどの土地でも、マンションにすることで何百世帯もの住宅を確保することができます。
ある地域にマンションラッシュが起きると、急激に人口増加が起きます。
色々な商店などは喜んで出店するでしょうが、困るのが学校や幼稚園です。
前回の記事にも書きましたが、マンションが増えてある一時就学児童の人口が増えても、それは一時的なものでマンションの新陳代謝が進まない限り、就学児童が増え続けることはないでしょう。
そうすると学校を作ってもすぐに統廃合といった問題が待ち構えています。
私の住まいの近くに武蔵浦和という駅がありますが、埼京線の開通、延伸や快速電車の充実でここ数年多くのマンションが建設されましたが、幼稚園の数が足りず、入園のために3日間徹夜で並んだといった話しも聞いたことがあります。
このように地域に非常に大きな影響を与えるマンションですから、それを作る者、それを受け入れる地域、そしてそこに住む者がそれぞれ責任を認識して調和を図る必要があるということですね。
『地域のなかで』3
師走の忙しさにかまけて、更新が遅れ気味になっており申し訳ありません。
日本経済新聞首都圏版の特集記事、「マンション誰のもの 第4部-地域のなかで」を紹介しています。全4回のうち今日は第3回目をご紹介します。
(以下新聞記事)
全盛期に比べ人口は約1万人減少。
残った住人の4人に一人は高齢者。
人口減に悩む地方の自治体の数値ではない。
東京都板橋区にある高島平団地の現状だ。
調べたのはタウン紙の高島平新聞。
2004年10月1日時点の人口を調査したところ、できた当初に3万人を超えていた高島平団地の人口は19,262人まで落ち込んでいた。
うち、65歳以上は4,677人で、区平均(17%)を大きく上回る24%を占める。
1970年代前半に1年強で一気に入居が行われた高島平団地だが、その後世代交代が進まなかったことが高齢化につながった。
団地内の賃貸棟に住む村中義雄編集長は「高齢者が増えると地域の消費が落ち込み、町の活力も失われる」と懸念する。
実際、団地内商店街でも駅から遠い地域は「シャッター商店街になっている」(同)。
危機感を抱いた住民の一部は大東文化大と協力して高島平再生策の検討を開始。
軒並み30年を超えた建物の建て替えや改築も視野に入れている。
だが、高島平の一角を占める分譲棟の住民の声を聞くと周囲との温度差が浮かび上がる。
「あえて変える必要はない」と話すのは中層棟の4階に住む高橋宏さん(73)。
理由はまず間取りだ。
南向きの部屋が複数あり、各階共通の通路がないため、北向きに集められた台所や風呂にも窓がきってある。
「日当たりがよく、風通しも抜群。建て替えたときにこれだけの条件が確保できるのか」
分譲棟の管理がかなり優れている点も背景にある。
当初は管理会社に全面的に委託していたが、後に自主管理へ移行。
毎年一千万円ほどの予算を投じて植栽を維持し、約10年ごとの大規模修繕にも積極的にかかわった。
配水管工事の説明会には住民が大勢集まり、集会場がいっぱいになったほど。
水漏れなどの問題はほとんど無く、住民が建て替えをためらう一因となっている。
それでも建て替えの声が出てくるのは、エレベーターのない中層棟で空き家が増えているため。
特に4、5階は若い人にも嫌われ、「持ち主か貸そうと思ってもなかなか借り手が現れない」(地元の不動産業者)。
もう一つの問題が駐車場不足。
団地内の駐車場では足りないため、住民多くは団地外の駐車場を借りている。
日本住宅公団が設立された1955年から昨年6月末までに公団が供給した住宅は1都3県で77万戸弱。
高島平や多摩ニュータウンなどで建設されたものの中には築30年を超えるものが多い。
建物自体の経年劣化に加え、エレベーターや駐車場など施設面で最近のマンションより立ち遅れていることが敬遠される要因となっている。
今住んでいる建物が思わぬ負担になることがある。
多摩ニュータウンでエレベーターのないマンションの5階に住んでいた都田浩司さん(65)は狭心症で入院した6年前、「エレベーターがないから退院は認められない」と医師に宣言された。
都田さんが後にエレベーター付マンションに引っ越すことに。
「ニュータウンの中には墓地もない。住むだけの町というのは、どこかいびつだ」
高島平新聞は団地住民のうち55~64歳の「高齢者予備軍」も調べている。
その比率は25%。
このままだと10年後には住民の約半分は高齢者になる計算だ。
そうなる前にどうやって町を若返らせるか、その際にマンション住民はそのような寄与ができるのか。
高島平をめぐる問題は、急激な日本全体の縮図なのかもしれない。
高島平とは東京都の板橋区の大規模団地です。
昭和47年に日本住宅公団、現在の独立行政法人 都市再生機構によって開発されました。
総戸数は1万戸を超え、当時は東洋一のマンモス団地との異名をとり、大規模団地の代名詞でした。
団地もこれだけ大きなものになると、団地内にスーパーや各種商店、診療所や学校、託児所などもあって、もはや一つの街を形成しています。
でも、居住者の新陳代謝が行われなければ、当然高齢化の道を辿ることになるわけで、高齢化になると学校や託児所も不要になるし、子供が独立して行けば商品の消費量も少なくなるので商店もどんどん寂れていきます。
私が知っている大きな団地の商店街も、かつては賑やかだったのに今では本当にひっそりした感じになってしまってます。
まあ、少子高齢化というのは日本全体のことですが、マンションや団地で顕著になるというのはマンション住民の入れ替えによる「若返り」が起きにくいからでしょう。
「若返り」というのは今までの入居者よりも若い世帯が入居するということですが、要は中古マンションを若い世帯が購入するということです。
バブルの頃はそれでも中古市場が活発でした。
新築で買った値段より数年住んで中古になったマンションを売る方が高いという、今考えると「何で?」ということが当たり前の時代でしたからね。
今ではマンションを終の棲家と考え、永住思考で購入する人も増えていますし、土地代がバブルの頃より安くなっているので、中古よりも新築を買おうという人が増えています。
しかし、永住思考ということはマンションに若い世代が入ってこないということであり、高齢化が進むということです。
マンションの管理組合は益々遠い将来を想定した施策を求められる時代になっています。