内なるリスク(3) | マンション管理の部屋

内なるリスク(3)

日経新聞の連載特集「マンション誰のもの」の第5弾、『内なるリスク』をご紹介しています。

今日は第3回目です。


(以下、新聞記事)

「キツネにつままれたようだった」。

神奈川県相模原市の鵜野森団地管理組合の神原茂理事長(71)は2001年5月、臨時総会で突然明らかにされた巨額横領事件を振り返る。経緯はこうだ。

1999年10月に着任した元理事長が翌年の4月から01年1月にかけ、修繕積立金の定期預金から7回にわたり無断で約1億1千万円を引き出し、横領。一度に3千万円もの現金をおろしたことが2度もあった。

事件のきっかけは会計責任者の引越し。保管していた印鑑を元理事長に預け、印鑑と通帳を同一人物が管理する事態になった。むろん、暖地の資産を管理する理事会は通帳を渡すように働きかけた。

だが「弁護士に預けている」「もう少したてば数十万円の利子がつく」といったその場しのぎの言い訳に翻弄され、チェック機能が働かなかった。

元理事長の言いなりに任期を1年から2年に延長、被害拡大を招く結果となった。実は元理事長はマンションの区分所有者ではなく、借家人だった。管理規約で借家人の理事就任は許されていなかったが、誰も文句を言わなかった。

「なり手がいなかったのもあったが、私を含めほとんどの住人が規約を読んでいなかった。管理への関心が薄すぎました」。神原理事長はくやむ。

同団地には約300世帯が入居し、監視の目には事欠かなかったはずだが、事件前まで総会の出席者は約30人。神原理事長も事件発覚時の臨時総会への出席が、30年以上の団地住まいで初めて。

「それまでは平穏だったので…」元理事長は逮捕されたが、被害額は一銭も戻っていない。

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マンション管理の相談業務を行う特定非営利活動法人(NPO法人)「日本住宅管理組合協議会」。
月100件ほどの相談件数のうち、約4割が組合の運営方法を巡るものだ。

「長く務めた理事長の独断がひどい」「理事長支持派が好き勝手をして困る」。そんな悩みがこの1ヶ月余りで目立って増えた。「耐震強度偽装問題を契機に、マンション管理への参加意識が芽生え始めた一つの証ではないか」(同協議会)というが、今も「我関せず」という住人が多数を占める物件が多いのも事実だ。

「むなしいというか、腹立たしい」。
東京・荒川区の隅田川沿いのマンションで暮らす早川清さん(56)は吐き捨てる。

先日、管理組合の臨時総会が開かれたが、早川さんが求めていた管理会社の変更案が完全に無視されたからだ。

早川さんが組合運営に疑問を抱いたのは修繕工事がきっかけ。業者の選考過程が住人に十分しらされず、理事長に問い合わせてもなしのつぶて。思い余って疑問点を書き連ねた紙を各階のエレベーターホールに張り出したが、理事長名で厳重注意の文書が送られてきた。

総会前には独自に他の管理会社に見積もりを取り、各戸にその結果を配布して臨んだ。管理費を削る代わりに今後の修繕にまわすよう訴えるつもりだったが、結局その努力は空回りに終わった。


理事長のなり手を見つけることすら毎年苦労するだけに、「面倒なことにはかかわりあいたくない」という空気が潜む。

「大根1本を買う時に生産地を確認する人が、数千万円も支払うマンションでは人任せになってしまう。弁護士や建築士らとグループを立ち上げて独自の相談会活動に取り組む禰宜(ねぎ)秀之・江戸川区マンション管理士事務局長(44)は指摘する。

強度偽装が発覚したマンションの住人の多くは、今も不安な生活をしいられている。予期せぬトラブルはどこに潜むかわからない。その時点に「無関心だった」では遅すぎる。



以下次回