内なるリスク(2) | マンション管理の部屋

内なるリスク(2)

日経新聞の連載特集「マンション誰のもの」の第5弾、『内なるリスク』をご紹介しています。

今日は第2回目です。


(以下新聞記事)


横浜市港南区にあるマンションの管理組合のもとに3月、一通の書類が届いた。

「組合の理事会に出席することは困難」と理事への就任を断る内容で、差出人として外資系信託銀行の代表取締役名が書かれていた。

この信託銀行は最近、マンションの4割にあたる賃貸部分を分譲主から一括購入した。管理規約では「大口の区分所有者は理事を務める」となっている。

だが、銀行は管理組合のことなど念頭になかったのだ。登記上は銀行が区分所有者だが、実際は不動産を管理運用するだけという信託受益権方式での取引だった。受益権をもち賃貸収入を得る実質的なオーナーは、別の不動産投資会社である。

銀行側は「顧客である投資会社の指示で管理・処分するだけなので、理事もその顧客から出したい」と主張するだけ。規約改正を求めることすらなかった。
銀行も投資会社も、マンションの収益を得る道具でしかない。

「どこまで日々の管理に気を配ってくれるのか」
「安値で転売されたら自分たちの部屋の資産価値も落ちる」


結局、あくまで銀行の代理人と位置づけたうえで投資会社の理事就任を認めることで決着したが、個人所有者の不安は尽きない。


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住人でも所有者でもない投資家がマンションの将来を左右する。

区分所有法でもマンション管理適正化法でも想定していない、こんな事例が増えている。

首都圏のマンション供給ラッシュを支えているのは、こうした投資会社や生命保険会社だ。

金融商品としてしかみない法人と、『終の棲家』として終生暮らす個人はどう付き合えばよいのか。
一つの法人が名実ともに区分所有者なのに、個人所有者ともめるコースもある。

例えば東京、北区のあるマンション。ここでは修繕積立金お負担を巡って、大口所有者の企業と個人の所有者が対立している。

「積立金の未払いがこの7年間で3千万円を超すのですよ」

管理組合の元理事長、窪川雅夫さん(仮名、66)は書類を手に訴える。
通常、汚水配管設備や集合アンテナなど住人が共同で使用する部分の補修費は各戸の部屋の広さに応じて負担額を決め、あらかじめ積み立てる。だが、マンションの1、2階部分を所有している不動産会社が支払いの一部を拒否しているのだ。

不動産会社にも言い分はある。
このマンションの場合、1、2階の法人部分と3階から上の住宅部分は、同じ管理会社相手ながら、別々に管理委託契約を結んでいる。

このため、修繕工事の負担も法人部分と住宅は別勘定だと主張。3階以上の住人が主に使うエレベーターの保守費うあ玄関ホールの修繕費などは「会社が支払う対象ではない」と積立金の支払い要求を受け入れなかった。この点、管理規約の内容もあいまいだ。

マンションは来年3月に次の大規模修繕工事を予定している。住民と不動産会社は現在、改めて協議中。会社側も歩み寄りの姿勢はみせているが、「問題が長引くようなら、訴訟も辞さない」と窪川さんは話す。


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隣同士とはいえ、個人と法人では利害が一致しないことも多い。ただ耐震強度の偽装のような問題が起きた場合は、資産価値の維持や安全性の確保という共通の課題が生まれる。その意味では運命共同体でもあるわけだ。

うまくやれるかどうかのカギとなるのはマンション運営の憲法となる管理規約である。ここの事情を踏まえ、明確なルールを作り上げることがトラブルを抑える近道になる。


さて、記事の中で信託受益権というものが出てきましたが、これはどのようなものでしょうか?

例えばマンション投資をしようとする場合、自分で実際にマンションを購入して、それを不動産屋を使って人に賃貸して利益を得る方法があります。


これに対し、信託受益権方式というのは自分でマンションを買うのではなく、信託銀行と信託契約をして、家賃等の収入だけを受益権という形で受け取るものです。


だから、自分で会社を経営するのではなく、株に投資をして配当などの利益だけを受け取る株主に似た取引と考えていただいてよいと思います。


そもそもマンションのルールはそこに住む目的を同じ人達で管理をしていくということを前提にしていますから、賃貸化が進んだり、信託方式による区分所有者が増えると、大きな問題になります。


信託受益権というのも「資産の流動化」に伴って生まれた新しい取引形態ですが、世の中の商取引は目まぐるしく変化していますから、マンションの問題も常に世の中の流れを敏感に察知して、対応しなければなりません。