内なるリスク(1) | マンション管理の部屋

内なるリスク(1)

日経新聞の特集記事、「マンション誰のもの」の第5弾です。

今回のテーマは『内なるリスク』

今日から4回に分けてご紹介していきます。


(以下新聞記事)

「最後は訴えるしか手がないのか」

さいたま市浦和区のマンションを所有する上川信吾さん(仮名、66)は憂鬱な思い出日々暮らしている。

上川さんがバルコニーや屋上に走る無数のヒビをはじめて見つけたのは築後2年たったころ。


購入時、品質保証(アフターサービス)期間は無料で修理するという説明を受けたことを思い出し、業者に連絡すると「基準に応じて対応します」という返事がきた。


だが、業者からはその後、一向に連絡が無い。しびれを切らして再び催促すると、担当者が見に来たが「これは毛細亀裂だから対象外です」と補修を断られた。

納得できない上川さんは管理組合名で「毛細亀裂とは何ミリ以下のものなのか」と質問状を送付。
すると返ってきたのは定量的なものはありませんという「人をばかにしたような」書面だった。

管理会社に相談しても、分譲業者の子会社だから腰は重い。
そんな時、耳にしたのが姉歯秀次元建築士による耐震強度偽装問題だ。
あわてて組合にある書類をチェックすると、購入時には見過ごしていた一枚の紙が出てきた。


偽装を見逃していた日本ERIが上川さんのマンション工事で中間検査を担当したうえ、行政から検査に不備があると注意を受けていたことを示す内容だった。

「うちは本当に大丈夫なのか」。
上川さんの不安は募る。


耐震強度偽装問題の発覚でマンションの安全性に不安を抱く人が増えているが、分譲業者や管理会社が誠実に対応するケースは少ない。
特に、通常は最大10年間という品質保証期間内に業者が機動的に動くことはまず無いのが実情だ。
住民の苦情の強さや団結力を探りながら、少しでも対処を先送りしようとする業者が多い。

その一方で、築後10年経つと業者の対応は大きく変わる。

品質保証や瑕疵(かし)担保責任期間が終われば、修繕費は住民の負担になるからだ。

「このままだと大変なことになりますよ」


さいたま市南区のマンションで暮らす京本卓さん(仮名42)は管理会社の担当者から建物診断のデータを示され、愕然とした、

コンクリートの状態が極端に悪い。

一部ではあるが、崩落して鉄筋がむき出しになっている個所もあった。

だが、ここで京本さんは思い直す。
そもそも、この診断は「築10年近くたつから」と管理会社が提案した大規模修繕工事がきっかけ。
修繕用の積立金2千数百万円を丸々使い、外壁から設備、屋上の防水まで全面的に手を入れる内容だった。

「こんなにひどいなら欠陥マンションでは」

京本さんが細かな内容を問い詰め、管理会社の親会社である大手分譲業者との直接交渉を申し入れると、管理会社の担当者はうろたえ始めた。

第三者の意見を聞こうと、知り合いの設計事務所に調査を依頼すると「明らかに過剰修繕で実際は400万円程度で済む」ことが判明した。
結果を管理会社に突きつけると、一転して「別の業者に委託したから間違った」と診断データや修繕案を撤回。分譲業者が直接直すことになった。

このマンションは構造自体には問題がなかったが、ずさんな工事や責任のたらい回しなど、今回の強度偽装問題に通じる業界の体質が浮かび上がる。
施行不良を逆手にとって新たな工事を提案する悪質な事例だが、決して珍しい話しではない。

マンションの安全性が不安なら第三者に診断してもらう方がいい。
新しい物件で不備が見つかったら分譲業者などに修繕を求めよう。
業者と渡り合うその時、住民はどこまで団結できるか。


以降、次回