工事 潜むリスク(4)
日本経済新聞で特集された「マンション誰のもの-工事 潜むリスク」をご紹介しています。
今回は第4回目、最終回です。
(以下新聞記事)
東京都杉並区の西荻窪駅近くにある「ベルフォート西荻駅前」。
2004年秋、理事会メンバーは目前にある2つの報告書を見比べてうなった。
マンション販売業者が提示した新築2年目点検の薄い報告書と、厚さ10センチ近いもう一つの書類。
後者は理事会が依頼した建築士が出したものだ。
発端はコンクリートに染み込んだ水がもれだし、タイルが白くなる「白華現象」だった。
販売業者が行った1年目点検を受けて実施した修繕はタイルの上からペンキを塗るのが主な作業だった。
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「本当に直しているのか」。
疑問を感じた理事の渡辺妙音(みょうおん)さん(39)らは、2年目点検に向け、マンション管理支援協議会(東京都中野区)の建築士を雇うことにした。
この業界が行っているアフターサービスでは、多くの場所は築2年後までなら無償で修繕してもらえる。
この機会を逃す手はない。
建築士は白華現象を徹底して調べ上げた。指摘した個所は販売業者が見つけた場所をはるかに上回る多さ。屋上の仕上げが設計図より耐久性の劣る工法になっていたことも指摘した。
渡辺さんらは建築士の報告書を手に業者と話し合い、今年9月から足場を組んで本格的な修繕が始まった。
建築士に支払った金額は約80万円。だが、その結果、無償で行ってもらう修繕はかなりの規模でなった。
「何もしなければ10数年後に自分たちの負担で直さなければならなかっただろう」と渡辺さんは話す。
日本の住宅寿命は短い。
取り壊された住宅の平均築後年数(国土交通省調べ)は31年と、米国(44年)や英国(75年)を大幅に下回る。
日本では築30年たつと「老朽化マンション」といわれるが、建物の寿命というより修繕や管理が不十分で劣化を抑えられないためだ。
地価が高騰していた時代はマンションを「仮住まい」と考える人が多く、手入れもおざなりになった。
しかし、最近の地価下落の影響もあって住民のマンション観は変わりはじめ、いかに長持ちされるかが課題となっている。
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「築後60年まで、めどがたったと建築士からお墨付きをもらった」
横浜市港北区の「グルーンコーポ大倉山」。
大規模修繕にかかわった榊枝清一さん(40)は満足そうに話す。
01年に着工した2度目の大規模修繕で、建物の維持管理にとどまらずバリアフリー化や資産価値向上という前向きの目標を掲げた。
地盤沈下の影響で問題が生じていた床下排水管の修繕が最大の眼目だったが、「修繕して前と同じにするのでは意味がない」。
段差があった建物の入り口にはスロープと手すりをつけ、敷地を狭くする要因だった変電施設は最新式の小さなものに変えた。
外壁も従来の白からクリーム色と茶色のツートンカラーに変えた。
見た目にフルさを感じさせないようにするためだ。
だが、ここまでうまくいったのは1度目の修繕後に積立金を値上げしておいたため。
「おかげで今回は積立金の範囲内で済んだが、次回もうまく行くとは限らない」と、管理組合は1戸当たり月1万円だった積立金を1万5千円に引き上げた。
10数年後に向けた準備を始めた。
本来長く住むことができるマンション。
「30年寿命説」をはね返し、「終(つい)のすみか」にできるかどうかは、住民の意識を努力にかかっている。
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バブル期以前では、マンションは永住の対象ではなく、買い換えを繰返し、最後は戸建という資産形成のセオリーに登場するアイテムだったと思いますし、実際にそのようにしている人が回りにたくさんいました。
ですから、当時マンションを買った人たちには築30年とか40年といった、マンションの老朽化に対するイメージが希薄だったと思います。
『どうせ古くなる前に売ってしまうから』
大半の人がそう思っていたのではないでしょうか?
ということは、区分所有者も建替えと言うことに対してはあまり深刻に受け止めていないわけですから、修繕積立金の額についてもシビアに考えてこなかったのです。
マンションを新築で分譲する際、はじめに管理費や修繕積立金の額を設定するのは、マンションを販売するデベロッパーです。
ここでは、本当に将来のことを考えて、必要な額を設定しているわけではなく、あくまで物件が売りやすい金額を設定します。
顧客はローンの支払額と管理費や修繕積立金の支払額から月々の支払い可能額を計算して収支計画を立てるわけですから、修繕積立金も安いに越したことはないと考えます。
例えば一般的なマンションで繕積立金が3万円とか5万円だったら、ちょと手が出ないでしょう。
転売を前提にしている時代は、それでもあまり問題にならなかったのですが、現在のようにマンションを終の棲家と考えるようになってからは、一気に老朽化という現実を突きつけられることになりました。
ですから、未だに昔の感覚を引きずっている区分所有者は管理組合の理事会が将来に不安を感じて修繕積立金の値上げ等を検討しだすと、『約束が違う!』とか、『なぜ、そんなに費用が必要なのか?』といって騒ぎ出すのです。
そもその、当初の修繕積立金などに約束も何も無いのです。
『なぜ、マンションだけこのような目に遭うのか?』
『一戸建ては修繕積立金が無いじゃないか!』
それは、マンションというものが独断で物事を決められないという宿命を背負っているからです。
一戸建てでは老朽化した建物を補修して住もうが、建替えようが資金の目途さえあれば所有者の一存で決められます。
説得する相手がいるとしてもせいぜい奥さんや子供だけでしょう。
しかし、マンションではお金に余裕があろうが、なかろが、建替えに反対しようが、賛成しようが、多数決で決まったことに従わなければなりません。だから、準備が必要なのです。
しかし、このブログでも何度も繰り返して書いていますが、マンションの建替えと一戸建ての建替えでは、難易度が天と地ほど違います。
マンションの建替えでは、建替え決議が決まったとしても、どのような建物で、仕様やグレードをどうするか?、各自の資金調達はどうするか?など、実際に建替えるには相当なパワーを必要とします。
ですから、そうそう簡単にスクラップ&ビルド(古いものは取壊し、新しいものを作っていく)というわけには行きませんので、マンションはいかにして長持ちさせるかが重要になります。
『長持ちをさせる』と言っても、単にペンキを塗り替えたり、傷んだ部品を更換すればよいという訳ではありません。
長期にわたり快適に生活するための改良が必要なのです。
例えば昔の車なら窓は手動が当たり前でした。クーラーだって付いている車のほうが珍しい時代もありました。でも、現在はどうでしょう?
クラシックカーのマニアでもない限り、このような車に乗るのはちょっと辛いですよね。
マンションも同じです。今やエレベータやオートロックは当たり前になりつつありますし、バリアフリーだってそうです。電気の容量だって昔のままでは今の電化製品の全部を賄えません。
「古いマンションだから我慢しなければ」ということではとても快適とはいえませんね。
これが、これからの『マンション管理』なのです。
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前回の記事ではコメントを省略してしまいましたが、ひとつだけ。
大規模修繕の際の工事監理についてです。
前回「業者に設計、施工、監理を丸投げすることが多く、工事監理の別途発注は費用がかさむため普及しづらい。」といった内容の記事がありました。
たしかに自分では必要と思っていても、いざマンションの管理組合の費用からとなると、
『本当に効果があるのか?』とか『無駄な費用になるのでは?』
と言われてしまうと厳しいものがありますね。
でも、自分で的確な判断が付かないものは、他人の力を借りるべきでしょう。
先日、自動車のオイル交換にカーショップに行ったのですが、カーショップも商売ですから店員から
『エンジンフラッシングをしたほうが良いですよ』とか、
『活性剤(結構高い)も入れた方がいいです』と色々なものを勧められます。
しかし、私はあまり車に詳しくないので、それを行ったとして本当に効果があるのか?費用と効果が釣り合っているのか?がわかりません。
まあ、自分の車なので、自己責任で判断すればいいのですが、これがマンションの修繕となれば話しは別です。大切な皆さんもお金を使うわけですから。
ですから、ちょっとした修繕は別として、大規模なものになればやはり設計や工事監理は別途発注することを検討すべきでしょう。
『本当に効果があるのか?』とか『無駄な費用になるのでは?』
といった問いかけには、
『これほどのリスクを回避することができた』
と胸を張っていえるような管理を行いましょう。
【おまけ】
「かんり」には管理組合の管理と、工事監理の監理がありますが、
管理は
「管轄・運営し、また処理や保守をすること。取り仕切ったり、よい状態を維持したりすること。」
一方、監理は
「監督・管理すること。とりしまること。」
という意味があります。
ちなみに、業界では管理を「たけかん」(竹かんむり)、監理を「さらかん」(皿)というそうです。
ではまた。