工事 潜むリスク(1)
9月14日から日本経済新聞の首都圏経済欄に『マンション誰のもの』-工事 潜むリスクという特集記事が組まれましたので4回にわたりご紹介していきます。
この日経新聞の『マンション誰のもの』という特集は、過去に何度か行われており、このブログではその度にご紹介をしています。
バックナンバーへはブログテーマの「新聞特集記事」からお入りください。
(以下新聞記事です)
「会社がもうけるためだけの工事だったんですよ」。
東京の文京区水道2丁目にあるマンションの前理事長、藤岡信勝さん(61)は憤る。
3年前の出来事だ。
マンションの管理会社から各戸の窓をサッシに取り換える総額3千万円の大規模修繕工事を提案された。
築30数年がたつだけに窓の立て付けは悪く、枠にガラスを接着する漆喰(しっくい)にもひび割れが生じていた。「ガラスが外れて落下すれば大事故になりかねない」という説明だった。
当時、理事長になったばかりの藤岡さんは了承するつもりだったが、一部住民から異論が出た。
そこで、1階の窓のひとつを犠牲にして、実際に取り付け状況を確かめることにした。
結果は明らかだった。
ガラスはしっかりと窓枠に固定されており、漆喰がひび割れた程度では外れる恐れは全くなかった。
工事を提案した管理会社は悪びれる様子もない。
不誠実な態度に不満を抱いた藤岡さんらはその後、管理会社を変更。
すると、エレベーターの補修工事でも過大な見積が発覚した。
従来の管理会社の提示額は1千万円。
しかし、新しい管理会社である管理費削減協会(堀栄真社長)の助言で、複数業者で入札し、管理組合が業者と直接契約する方式に変えたら、同じ工事が5百万円に下がった。
「悪質な会社が手数料を抜く手口がよくわかった」と藤岡さんは振りかえる。
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国土交通省が2003年度に実施した調査によると、マンション住民が積み立てる修繕用資金は1戸当たりの平均で月に9千円。
民間の分譲マンションの積立金残高は平均で5千2百万円にも上る。
建物の資産価値を維持するためには計画的な修繕が不可欠だが、油断すると、大切なお金が業者の食い物にされかねない。
「この工期では2度塗りなんて無理だよ」。
東京の世田谷区成城のマンションで暮らす石川正さん(仮名、64)は屋上や手すりなどの塗装工事で、下請業者にこう居直られた。
施工業者との契約では「2度塗り」と明記されているが、かなり無理な工期らしい。
施工業者を決めた時にも問題があった。
つきあいが長い建設会社に工事費の算定基準となる塗装面積や方法などを決めてもらい、入札したところ、最も安値だったのはその会社自身だった。
これにはカラクリがあった。
他社向けの仕様書では塗装面積がわずかに広く設定されていたのだ。
担当者は様々な言い訳をしたが、「素人にはわからないところで誤魔化されている」と石川さんは不信感を募らせる。
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「大規模修繕では第三者にセカンドオピニオンを求めることが必要だ」
と建築技術支援協会の中村正美部長は指摘する。
ベテラン技術者が集まる同協会は5月から建物診断や見積額の精査、工事監理などの支援事業を始めた。1億2千万円の工事が8千万円に下がった事例もあるという。
マンションを守るためには多額のお金がかかる。
後悔しないためには念には念を入れたチェックが必要だ。業者任せが最も危ない。
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マンションの大規模修繕でトラブルが相次いでいる。
建物の欠陥が露呈し、訴訟になるケースも少なくない。
第三部ではマンションの工事を巡るリスクを追う。
工事費用やサービスの対価の査定は非常に難しいものですね。
なぜ難しいかと言えば、ひとえに「比較がしにくい」からと言えるでしょう。
キャベツの値段なら、近所のスーパーを数件まわれば、大体の値段はわかります。
あとは産地はどこか?有機農法か?などの付加価値を判断して、自分で妥当と思う値段のものを買えばすみます。
しかし、工事やサービスとなると簡単に値段を比較するものがありません。
比較をしようとおもっても、両者の内容や品質が同等であるかどうかも分からない場合が多くあります。
要するに「値段が高いのか、安いのか見当がつかない」ことに問題があります。
自分の中に適正価格という基準を持っていない場合、一番簡単な方法は『相見積(あいみつも)り』を取る事です。
複数の業者に対し同じ条件を提示して見積りを提出させて、発注先を判断するのです。
ただし、ここで気をつけなければならないのは、一つは比較する両社の見積りが本当に同一条件によるものかどうか?ということと、同一条件ではあっても『安ければ良い』と言うものでは無いということです。
新聞記事にもありましたが、工事の内容や数量に差があって、実際は比較にならないということがあります。安いなぁと思って契約したら、実は素材がワンランク低いものを使われるといったことも良くあります。
それからいくら工事費が安くても、いい加減な業者も多くいます。
「安かろう悪かろう」では後々大変なことになります。
日本の建設会社は大手ゼネコンから一人親方の工務店まで合わせると、約50万社あると言われています。
この50万社という数は、全国の飲食店(喫茶店も含む)の数に匹敵するといわれていますので、恐ろしいほどの数です。
これだけの建設業者がいれば、中にはいい加減な業者がいてもなんら不思議ではありません。
あと、ある程度信用のおける業者であっても、トラブルになった時のことを考えて、工事の監理は施工会社と別の設計事務所などに依頼することが良いと思います。
ちなみに監理というのは、工事が設計どおりに行われているかどうかを発注者に代わってチェックする役割のことです。
一般的に工事は設計・施工・監理からななり、工事看板などに「設計・監理○○設計事務所」とかかれいるのを目にされた方もいらっしゃると思います。
まとめると、小規模の補修などは別として、ある程度の規模の工事に関しては、
①相見積りをとって大まかな適正価格を把握する。
②状況によっては第三者(建築士や技術系のマンション管理士など)に依頼して、
見積内容のチェック、業者の評価等を依頼する。
③できるだけ工事監理は施工会社以外のところへ別途発注する。
といったことがポイントになります。
先ほど「安ければ良いというものではない」と書きましたが、マンションでは逆に「高いから安心」といった考え方をする場合もあります。
管理組合の役員さんも安い業者に頼んで、何かトラブルがあれば後々自分たちの責任問題になるので、相見積をとって最も高い業者に発注し、「安心料だ」などと言っている本末転倒なケースもよく見受けられます。
どうせ同じお金をかけるなら、値段の高い業者に根拠の無いお金を払うより、少し費用がかかっても監理者を選任することの方が、よっぽど有益です。
忙しい中での組合活動は大変でしょうが、上記のポイントにあるような合理的な判断を心がけるようにしましょう。