団地自治会からの退会は可能か?(2) | マンション管理の部屋

団地自治会からの退会は可能か?(2)

裁判官  


皆さん、大変申し訳ありません。

「団地自治会からの退会は可能か?」の後編はアップしているもとを思いこんでおり、次のテーマにいってしまいましたが、まだのようでした。


それでは改めまして、県営住宅の団地の自治会からの退会は可能か?という最高裁判決についての後半です。

前回のポイントを整理しますと、

①マンションの管理組合、町会などの地縁団体(自治会)、今回の県営住宅の自治会はそれぞれ法的な位置付けが異なる。

②マンションの管理組合は強制加入で、区分所有権を譲渡(マンションの譲渡)をしない限り、脱退は認められない。

③町会などの地縁団体は入会を強制されるものではなく入退会は自由。

④今回、県営住宅の自治会からの退会は有効との最高裁判決が出た。

というものです。

 


それでは、ここで判決理由を見ていきたいと思います。


【事実関係】

1.この団地自治会は会員相互の親睦、住環境の維持管理等、会員相互の福祉・助け合いを目的として設立された。


2.共益費は1世帯あたり2700円で、自治会費は300円と規定していて、会員の退会についてはこれを制限していない。なお、共益費は街路灯、階段灯等の電気料金、屋外散水栓等の水道料金、エレベーターの保守、害虫駆除等の費用である。


3.入居者の男性は自治会役員の方針や考え方に不満があることを理由に、平成13年5月に退会の申し入れを行った。


4.自治会は平成13年3月から平成15年2月までの共益費 6万4800円(2700円×24ヶ月分)と自治会費7200円(300円×24ヶ月分)の合計7万2000円と遅延損害金を求めて訴えた。

 

【原審(高等裁判所)の判決】

最高裁に来る前の第二審判決を要約すると、

1.自治会の会員は自治会に加入することで共用施設の維持管理や住環境の確保などの利益を享受するのだから、その対価として共益費の支払い義務があり、またその自治会運営のための諸活動を賄うための自治会費を負担する義務がある

 

2.自治会の規約では自治会は団地の入居者で組織することが定められていて、退会については定められていない


3.自治会が法秩序に著しく違反したり、個人の権利を著しく侵害するなど特段の事情がある場合は退会が許されるとしても、特定の思想、信条や個人的感情から退会を申し入れることは許されない

 

というものでした。


【最高裁判所の判決】


これに対して最高裁は、

1.入居者の男性は入居当初、共益費を支払っており、この団地に入居している限り共益費を支払うことについては約束が成立している と見ることができる。



2.自治会からの退会が有効であろうが無効であろうが共益費の支払い義務はなくならない


3.この自治会は会員相互の親睦、住環境の維持管理等、会員相互の福祉・助け合いを目的として設立されたものであり、強制加入団体でもなく、規約で退会を制限する規定を設けていないのだから、いつでも退会できると解釈すべきである。


4.だから、滞納している共益費は支払わなければならないが、退会申し入れ後の自治会費(月300円)は支払い義務が無い。


 


7万2000円をめぐって最高裁まで行ってしまいましたが、金額の問題では無いと言うことですね。

 

さて、皆さんはこの判決をどのようにお感じになったでしょうか?

「月に300円くらいなら払ったって良いのではないか?」、「みんなが払っていて、一部の人が払わないのは不公平ではないか?」という感情を持たれた方も多いのでは?

 

しかし、法律で支払いを命じるということは、強制力があるということで、もし支払わなければ財産を差し押さえてでも、無理やり支払わせるということになりますから、たとえ300円と言えども慎重な判断が必要だと思います。

逆に言えば法律で強制するほど必要性があるか?ということだと言えます。

 

このケースでは、県営住宅の入居ですから、県と入居者の賃貸借契約が基本となります。だから、この賃貸借契約によって支払う義務があるか否かの判断であると思われます。


判決では入居をしていることで「共益費の支払い義務はある」と認めていますが、自治会自体は「任意加入団体」であり、自治会費は強制されないとしています。


ポイントは「規約に退会を制限する規定が無い」という点であり、もし規約に「入居者は自治会への入居は強制であり、退会してはいけない」とあれば、入居者はこれに同意をして入居していることになるので、退会は認められず、自治会費の支払い義務があるとの判決が出た可能性があります。


その意味から、私は今回の判決は妥当であると感じています。

とは言え、本当は話し合いで解決できればみんな幸せだったのでしょうが・・・・。

 

今回の場合は県営住宅なので、マンションの管理組合の場合とは異なりますが、マンションの管理規約や細則などの見直しに際しては、参考になる部分も多いのではないでしょうか?


なお、マンションの管理費とは別に、マンションの入居者も地域の自治会費(町会費など)があると思いますが、この取扱いについては以前「管理費と自治会費(3月2日)」という記事を書いておりますので、興味のある方はアーカイブでご覧ください。