ペット問題(後半) | マンション管理の部屋

ペット問題(後半)

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前回に続いて、名古屋のペット裁判の解説です。


この裁判、第一審では訴えの根拠を「占有権の侵害」としていました。しかし、この「占有権の侵害」が認められなかったため、第二審(控訴審)では訴えの根拠を「人格権の侵害」に変更していました。


この、 「占有権の侵害」とか「人格権の侵害」とはどのようなものでしょうか?


まず「占有権の侵害」ですが、占有権とは物を所持(占有)していることによって生じる権利です。マンションで例えると、部屋に住んでいる人に占有権があります。


似たような権利に所有権がありますが、所有権は物を処分(売却や贈与等)できる権利なので、持ち主にしか発生しませんが、占有権は賃借人にも発生します。


さて、占有権には「占有訴権」と言って、占有者が占有を他人に侵害された場合に、侵害の排除などを請求できる権利が見とめられています。


例えば、
(1) 自分の家の庭に台風で隣の家の樹木が倒れたら、「この樹木を撤去してくれ」

   という請求ができます。(占有保持の訴え


(2) 隣の家の石垣が崩壊しそうな時は「危ないから防護措置をしてくれ」と請求する

   ことができます。(占有保全の訴え


(3) 占有物を奪われた場合には、「その物を返せ」と請求することができます。

   (占有回収の訴え

                                          などがあります。


この「占有権の侵害」について第一審では「犬の騒音によって占有権が侵害されたとは言えないので、慰謝料は認めるが犬の飼育禁止までは認められない」といった判決でした。


そこで第二審(控訴審)では訴えの根拠を「占有権の侵害」から「人格権の侵害」へ変更しました。


では、この「人格権の侵害」とは何でしょうか?


人格権とは日本国憲法の概念です。実際に憲法13条の条文を見てみましょう。


「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」


よく「基本的人権の尊重」などと言いますが、人間は誰でも幸福を追求する権利があり、他人に迷惑をかけない範囲であれば、この基本的人権は保障されるというものです。


さて、今回のケースで考えてみると、犬を飼うということは幸福追求権により認められる権利です。
私も小さい頃、犬を飼っていました。犬に限らずペットは人の心を癒してくれる、家族の一員となります。


最近ではペットロス症候群と言って、飼っていたペットの死亡で、精神に支障をきたすケースがあるほどです。


しかし、一方でペットの鳴き声や足音で迷惑をしている人は、そのような騒音に悩まされる事無く、平穏に暮す幸福追求権があります。


         狂犬

人は誰でも動物好きとは限りません。犬に噛まれた経験のある人は、犬の鳴き声を聞いただけで恐怖感を憶える人もいるでしょう。


上階から四六時中「カツカツカツ」と犬の足音が聞こえると、落ち着いて暮して行けないという人がいても不思議ではありません。


さて、このような「幸福権の追求」が衝突した場合、どちらを優先すべきでしょうか?


前述したとおり、いくら基本的人権の尊重とは言っても、人権が絶対無制限であると言う意味ではありません。人権とは言っても「他人に迷惑を掛けない限り」という一定の歯止めがなければ、みんなが好き勝手な人権を主張して、世の中は大混乱になるでしょう。


この歯止めのことを憲法では「公共の福祉」という言葉で表現します。


さて、今回の第二審(控訴審)では原告の「人格権の侵害」を認めました。


両者の権利のどちらを保護するかといえば、マンションでは管理規約でペットの飼育が禁止されており、ペットの騒音で体調を壊したとなれば、「公共の福祉」に反するということでしょう。


犬3


マンションで暮すということは、「マナー」とは別に絶対に守らなければならない「規約」があるということを良く考えて、ペットを飼っている人や、今後どうしても飼いたい人は、飼育可能なマンションを選ぶなど、計画的な生活設計を立てる必要があります。